残念ながらはずれですv
はずれでも小説はございますv
よろしければどうぞ……

 

「あ!猫だ!!」
 裕太が病院の中庭を歩いていると一匹の黒猫を見つけました。
 ただし、知らないお姉さんが抱いていました。
 お姉さんは、朱夏よりも少し年上に見えました。
 その人の猫かなとも思いましたが、違うかもしれないと思ってお姉さんに声をかけました。
「その猫、お姉さんの?」
 するとお姉さんはにっこりと笑って答えました。
「そうだね……私の友達……かな?」
 その笑顔が何となく気になって裕太はお姉さんの隣に腰掛けました。
「お友達ってことは……別の人の猫なの?」
「ううん。飼われてない猫さんだよ」
 お姉さんは猫を愛おしそうに撫でました。
 それが裕太の目にはとても不思議なものとして映りました。
「……その猫の……名前は?」
「……勇人……っていうの……」
 俺を聞いて裕太は嬉しそうに笑いました。
「俺、裕太って言うんだ!勇人と一文字違いだね!」
 それを聞きお姉さんは少しびっくりしてましたがすぐににっこりと笑いました。
「そっか。裕太くんって言うんだ……私は姫乃。よろしくね?裕太くん」
「うん。よろしく」
 そう言って裕太は姫乃の手を握りました。
「ところで……飼い主がいないのにどうして猫の名前を知ってるの?」
 裕太は不思議そうに猫を見ながら姫乃に聞きました。
 すると、姫乃はちょっと困ったように笑いました。
「この猫さんはね……魔法で猫に姿を変えられちゃった男の子なの」
 まるでどこかのお伽話みたいな話です。
 でも、裕太はそれを信じました。
 そして、ベンチから立ち上がって姫乃に言いました。
「そう言うときはね、キスしてあげると元に戻るんだよ!試しにやってみなよ!」
 それを聞いて真っ赤になっている姫乃をよそに裕太はその場を去りました。
 ある程度、歩いていくと今度は猫を抱いたお兄さんが立っていました。
 近づいてみるとかなりかっこいいお兄さんだと言うことがわかりました。
「その猫、お兄さんの猫?」
 すると、お兄さんは優しそうに微笑みました。
「いや……違うよ」
「それじゃぁさ!この猫、誰か別の人が飼い主なの?」
「いや、この辺りを歩いていたらたまたま見つけただけだから……飼い主がいるかどうかはわからないな」
 それを聞いて裕太はやった!と思いました。
「あのさ!その猫、俺の友達の猫かもしれないから……連れてって良い?」
 お兄さんは何も言わずに微笑んで猫を渡してくれました。
「良いの?やった!!!」
 裕太は猫を抱いて走り出しました、そして途中で思い出したように後ろを振り返って大声で言いました。
「おにーさーん!!ありがとー!!!」
 お兄さんが手を振ってくるのを見て裕太はまた走り出しました。
 裕太が病院の中に消えていくのを見てお兄さんは嫌な笑い方をしました。
「……私の魔法を解いた君が悪いんですよ?」

 すれ違う看護婦さん達に『廊下は走らないで!』と言われたが、そんなこと聞いてられなかった。
 朱夏に少しでも早く猫を見せてあげたかったから。
 ひょっとしたらこの猫は朱夏のじゃないかもしれないなんて裕太の頭にはなかった。
 絶対に朱夏のだと信じて疑わなかった。
「朱夏!猫連れてきたよ!!」
 側に看護婦さんがいたら『静かに!』と注意されたであろう大声を上げながら扉を開けた。
 けれど、そこに朱夏の姿はなかった。
 一瞬部屋を間違えたんだろうかと思い廊下に出て確かめてみたがやはりこの部屋には朱夏の名前が入っていた。
 裕太は慌ててナースステーションに駆け込んだ。
「朱夏は?朱夏はどうしたの?!!」
 けれど、誰も答えてくれなかった。
 誰も知らないって雰囲気じゃなかった。
 みんな知ってるけど隠してるって雰囲気だった。
「教えろよ!!朱夏はどうしたんだよ?!!!答えてくれよ!!」
 すると、一人の看護婦が前に出てきた。
「裕太くん、あのね……」
 看護婦は言いづらそうにしていたがやがてゆっくりと口を開いた。
「朱夏ちゃんはね……さっき急に発作が起きて……今、手術してるの……」
 動けなくなった。
 さっきまで楽しそうに笑ってたのに……
 しかも、この雰囲気からしてかなり危ない状態だというのは裕太にだってわかる。
「朱夏は……」
 やっと、絞り出したような声が出た。
「朱夏は……大丈夫……なんだよな……助かる……よ……なぁ?」
 何も答えてくれなかった。
 誰も何も答えてくれなかった。
 恐かった。
 朱夏の病気のことは何も知らない。
 でも、ひょっとしてすごく重い病気なのかもしれない……
 それで……発作が起きたのに……助かるのか?
 どうしようもなく不安で、恐かった。
 恐くて恐くて、じっとしていられなくなった。
 慌ててナースステーションを飛び出して手術室まで走った。
 猫がいなくなったことに気付かないぐらいだった。
 手術室にたどり着くとちょうどランプが消え、中から父親が出てきた。
「父さん!!!」
 父親の前に道をふさぐように立った。
「父さん!正直に答えてくれよ!!朱夏は……朱夏は助かったのか?!!」
 父は静かに首を横に振った。
 それはNoということ。
 つまり助からなかったと言うこと…
「なんでだよ!!父さん医者だろ?!!人の命を救うのが仕事だろ?なのになんで朱夏が助からないんだよ!!」
 裕太だってわかってる。
 医者は万能じゃない。
 なんでも出来る訳じゃない。
 人の命を救えないときだってある。
 それでも、言わないとおかしくなりそうだった。
「……なんで……朱夏が……」

 主人を亡くした病室はとても静かで、不気味だった。
 朱夏の病室だった部屋で裕太は一人、泣きそうになっていた。
「……どうやら上手くいったみたいですね……」
 誰もいないはずの病室で声がした。
 慌てて周りを見回すと一人の男が立っていた。
「……さっきの……お兄さん?」
 猫を渡してくれたお兄さんだった。
「何が……上手くいったの?」
 裕太が聞くとお兄さんは微笑んだ。
 優しさなんて全く感じられない冷たい笑いだった。
「君が邪魔するからですよ?君のせいで魔法は解けて、姫を連れていくことが出来なくなってしまったんですから」
 話が分からなかった。
 質問と答えが全く食い違っている気がした。
「……なんの……こと?」
「この部屋にいた少女はずいぶん弱ってましたから、簡単に出来ましたよ」
 その言葉を聞いた瞬間、裕太の瞳が変わった。
「朱夏に何した?!!!!」
 今にも噛みつきそうな裕太を見ながら笑っていた。
「別に……発作が起きやすくしただけですよ」
 それだけかもしれない。
 けれど、そのせいで朱夏は……
「テメェ!!何でそんな……」
「テメェじゃありません。帝です。それに、理由は先程述べたはずですよ?君が邪魔したからだと」
 帝は裕太の言葉を遮るように言った。
 だが、そんなこと裕太は聞いていない。
「俺が何した?!!それに、俺が悪いんなら俺にやればいいだろ!!何で朱夏なんだよ!!!」
 帝は肩をすくめてため息を吐いた。
「先程も言ったはずですよ?君のせいで魔法が解けて姫を連れていけなくなったと」
「……魔法?」
 魔法を解くようなことをしただろうか?
 そう思ったが、すぐに思い出した。
 魔法で猫にされてしまった勇人を連れていた姫乃のことを。
「オマエが魔法をかけたんだな!!」
「そうですよ。けれど、その魔法を君が解いてしまったから私の計画は全て水の泡になったんですよ」
 そして、帝は裕太を見下すように笑った。
「だから、復讐をしただけですよ」
「それなら!!俺に復讐すればいいだろ!!何で朱夏が死ななきゃなんねぇんだよ!!!」
 今まで、こんなに腹が立ったことがあっただろうか?
 今まで、こんなに感情が爆発したことがあっただろうか?
 だが、そんな裕太を帝は笑っていた。
「自分が死ぬよりも、大切な人を失った方が悔しいでしょう?自分の無力さを思い知るでしょう?だからですよ」
 そんな理由で朱夏は死んだのだ。
 ただ、復讐の道具として、裕太を悔しがらせる為だけに死んだのだ。
「テメェ……許せねぇ……」
 帝を睨み付けたが、帝は相変わらず笑っていた。
「思った以上に効果があったようで嬉しいですよ。ですが、もう君には二度と会いませんよ。また邪魔されてはたまりませんからね」
 それだけ言うと帝はふっと消えた。
 まるで存在が消えてしまったように跡形もなくその場から消えてしまった。
「………………くそっ!!」
 裕太の中にどうしようもない怒りだけが残った。

THE.END