残念ながらはずれですv
はずれでも小説はございますv
よろしければどうぞ……

 

「あ!猫だ!!」
 裕太が病院の中庭を歩いていると一匹の黒猫を見つけました。
 逃げようとする猫を後ろから抱き上げて猫に尋ねました。
「オマエが朱夏の猫か?」
 すると猫がにゃーと甲高く鳴きました。
 それを聞き裕太は一人で頷きました。
「そうか。やっぱりそうなんだな。」
 猫が鳴いた理由を勝手に自分の都合よく解釈しました。
 そして、裕太がそのまま病院に戻ろうとしたときでした。
「あ、あの!違います!私は朱夏さんの猫じゃありません!」
「猫がしゃべった?!!」
 裕太はびっくりして猫を放り投げました。
 放り投げられた猫はすとんと軽やかに着地を決めました。
「危ないじゃない!猫だったから無事だけど……人だったらケガしてるよ?きっと」
 猫は裕太に威嚇しながらわめきました。
「うっわ!!やっぱホントに猫がしゃっべてる!気持ち悪!!」
 猫から目を離さずに裕太は後ずさりしました。
 けれど、せっかく裕太が後ずさって開けた距離も一瞬にして縮められました。
「猫じゃないよぉ!これは……仮の姿なの!」
 猫が突然キレだしました。
 怒って一気に裕太に詰め寄りました。
「だー!!!!寄るな!化け猫!!!!」
「化け猫じゃないってばー!!!」
 そう言うと猫はぽんっと言う軽い破裂音を立てて煙を出しました。
 その瞬間裕太は「化け猫で忍者」だと思いました。
 煙で猫の姿が見えなくなっていたがどこからともなく声だけは聞こえた。
「人の話はちゃんと聞いてよ?これでもまだ化け猫って言うの?」
 煙が少しずつ晴れていきようやく誰かがいると言うことがわかってきた。
 煙が完璧に晴れたとき、猫の姿は消えていた。
 その代わり、少女が立っていた。
「……………………あれ?」
 裕太は周りを見回して猫の姿を探していた。
 そんな裕太の姿を見て少女は申し訳なさそうに切り出した。
「あのー……ちょっと良いですか?」
 裕太が自分の方を見ているのを確認して少女は言葉を続けた。
「さっきの猫を探してるみたいですけど……さっきの猫は私ですよ?」
 …………しばらくの沈黙。
「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!!」
 何を言おうとしたのかわからないが、裕太は叫んだ。
 それを見ながら少女は困ったような表情を浮かべていた。
「あの……裕太さん?」
 裕太はあっちの世界に行っているようだった。
「ゆーたさーん?」
 少女が心配そうに裕太の顔を覗き込んだ。
 その時だった。
 裕太の頭に衝撃が走った。
 何かがぶつかったらしい。
「こらぁ!!私のマリュに何してんのよ!!」
 裕太の背後の方から声が聞こえた。
「ら、ライラ?どうしたの?」
 あまりに突然のことで裕太は理解できなかったが、かろうじて目の前にいる少女が『マリュ』で、背後にいるであろう少女が『ライラ』であることだけはわかった。
 思い切って後ろを振り返るとライラだと思われる少女が立っていた。ハリセンを持って。
 裕太にだって理解できた。
 そのハリセンで頭を叩かれたことを。
「そこの子!」
 ライラがビシッと裕太を指さしながら睨み付けた。
「マリュに変なことしたりしたら地獄に連れてくからね!!」
「はぃい?」
 思わず裕太は素っ頓狂な声を上げてしまった。
 相手の言ってる言葉がいまいち理解できなかった。
 別に知らない言葉を使われたわけではない。
 ただ単に現実で考えられないようなばかばかしいことを聞いたからだった。
「地獄って……んなもんあるわけないじゃねぇか。ばかじゃないの?」
 そう言ってから初めて気付いた。
 目の前にいる少女の背中に羽が生えていること。
 鳥みたいなのじゃなくて、漫画とかに出てくる悪魔みたいな羽。
 それに、頭からバイ菌みたいな触覚を出して、またまたバイ菌みたいなしっぽをつけていた。
 一瞬飾りかと思ったが、ぴくぴく動くのを見る限り飾りではないようだ。
「…………………え…………」
 理解するのに時間が必要だった。
 ライラは呆れたように裕太を見ながら言った。
「見てわかんない?私達、悪魔よ?地獄の住人の」
 その一言で充分だった。
「なあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!!」
 本日二度目の叫びだった。
 あまりにも信じられない話だった。
「嘘だろ?!!!地獄なんてホントにあんのかよ?!!!っつーか、悪魔なんて空想だろ?!!!!」
 頭爆発寸前の裕太にマリュがおずおずと声をかけた。
「あ……あのー……裕太さん?」
 そんなマリュを見てライラは慌てて二人の間に割って入った。
「マーーーーリュ!!!そろそろナリアの方も仕事が終わっただろうし、もうこの子を引き留めておく必要なんてないよ!さっさと次行こうよ!!」
 早口でばーっとまくしたててライラはマリュの腕を掴んでその場を去ろうとしていた。
「ちょっと待てよ!引き留めるって何だよ?仕事って?」
 何とか混乱の渦から逃れたらしい裕太がライラを引き留めた。
 だが、ライラは裕太を軽く睨み付けてたら「関係ない」と言って去ろうとした。
「……あのね……私達、朱夏さんの魂を抜きに来てて…それで裕太さんが邪魔だったからここで引き留めてたの」
 その時、マリュが裕太の瞳を真っ直ぐに、少し申し訳なさそうに見ながら言った。
 慌ててライラが止めに入ったがもう遅かった。
「な……んだよ……それ……」
 小さく、誰に言うでもなく、一人呟いた。
 一瞬、マリュにつかみかかろうとしたがすぐに手を止めた。
「……っくそ!!!」
 裕太は中庭を後にし、朱夏の病室へと急いだ。
「ねぇ……マリュ?」
 裕太の背中が見えなくなった頃、ライラがマリュの方を見ないで口を開いた。
「どうして教えたの?仕事のこと」
 肩をすくめてマリュが笑った。
「……なんでだろうね……」
 答えになっていなかった。
「なんとなく……かな」

「朱夏!!!」
 病室の扉が荒々しく開けられた。
 いつもなら笑って出迎えてくれるはずの少女の声が聞こえなかった。
「……病院で走ってはいけませんよ」
 そのかわりに別の少女の声が聞こえた。
 朱夏の眠るベッドの側に立っている悪魔の少女だった。
「……オマエがナリアだな?!」
 朱夏に駆け寄り、裕太は目の前にいる少女を睨み付けた。
 少女は感情のない瞳で答えた。
「そうですが?それが何か?」
 その態度が気に入らなかった。
「朱夏の魂抜いたりしやがったらただじゃおかねぇ!!」
 噛みつきそうな裕太に対しナリアは相変わらず無表情だった。
「残念ですが、もう仕事は済みました。朱夏さんはもう死にました」
 身体の全ての機能が止まった気がした。
 間に合わなかったのだ。
 遅かったのだ。
「……ぅ……そ……だろ?」
 信じられない現実。
 信じたくない現実。
 眠っているようにしか見えないのに、もう目を覚まさないなんて……
「なんで……なんで、朱夏が死ななきゃいけないんだよ……なんで……」
 震える声を無理矢理絞り出しながら朱夏に手を伸ばした。
 そぅっと触れると、冷たかった。
 人のぬくもりがなかった。
 物みたいだった。
 それがとてつもなく恐く感じた。
「これは……王様の命じられたこと……ですから……」
 運命の一言で片付けられたことがすごく悔しかった。
 すごく腹立たしかった。
「……っざけんじゃねぇ!!朱夏の運命を勝手に決めんじゃねぇ!!」
 その時、ナリアの顔に表情が出たことに裕太は気付かなかった。
「……私がここに居るのも……運命なんです……」
 その声はあまりにも小さくて裕太の耳には届かなかった。
 裕太が怒りにまかせてナリアに食ってかかろうとしたときだった。
 ナリアの姿が消えた。
「?!!」
 驚いて、周りを見回してみたがナリアの姿はなかった。
「ナリアはウェル……王様のところに帰ったよ」
 裕太の背後から声がした。
 その声はさっきも聞いた声だった。
「マリュ?!」
 振り向くとそこにはマリュだけが立っていた。
 相変わらず申し訳なさそうにしていた。
「王様がナリアを呼んだから……だから、ナリアは帰ったの」
 もう一度、ゆっくりと言葉を繰り返した。
「……王様……って……?」
 話が見えてこないせいか、裕太の怒りはどこかに行ってしまっていた。
「私達のいる……地獄の王様。朱夏さんの魂を……みんなの魂を管理してる人……」
 裕太にとってはそれだけで充分だった。
 充分、怒りを再燃させる理由になった。
「……そいつのせいで朱夏は死んだんだな?!!そいつに会わせろ!!」
 それを聞きマリュの表情が変わった。
 真っ直ぐに裕太を見つめてきた。
 その瞳は澄んでいた。
「……ウェルを悪く言わないで。ウェルは悪くないんだから」
 それだけ言うと目を伏せて、呟いた。
「ウェルだって……辛いんだから……」
 裕太は不思議そうにマリュに瞳を向けた。
「…………マリュ?」
 マリュがパッと顔を上げて微笑んだ。
「あのね!ホントは教えちゃいけないんだけど裕太さんは特別ね?」
 あまりにも突然の変わり様で裕太は声も出なかった。
 ただただ目をぱちくりさせていた。
「朱夏さんね、生まれ変わるよ!いつになるかわかんないけど絶対に生まれ変わるから!」
「え?!!」
 驚いた。
 生まれ変わるなんてことがあるなんて。
 でも、それよりももっと別の感情の方が強かった。
 嬉しい。
 もう一度朱夏に会えるんだ。
「裕太さんのことも全部、忘れちゃうけど…それでも……待っててあげてね?」
 もう一度微笑んでからマリュは消えた。
 病室には、裕太ともう動かない朱夏だけになった。
 朱夏の頬に優しく触れながら声をかけた。
「……待ってるから……帰って来いよ?」

THE.END