「さくらのこと、好きだよ」
　口に出してから、言わなければよかったと後悔もした。
　さくらには好きな相手がいる。それは自分ではない。にも関わらず、こんなことを言って……一体自分はどうしたいのだろうか。
　そもそも、ただの黒猫。黒猫が桜の精霊に告白？　猫が樹に。あまりにも馬鹿らしくて笑えもしない。
「ありがと」
　それでも、さくらはいつもの笑顔を浮かべていた。
「私もクロのこと好きだよ」
　わかっている。
　お互いただの友人じゃないことくらい。かけがえのない存在だってことくらい。
　けど、ねぇさくら。
「だってクロは、私の大切な友達だもの」
　僕はそんな意味で好きだと言ったんじゃないよ。
　喉の奥で引っかかった言葉はそのまま消えてしまった。
　意気地なし。そう言われても仕方ない。けれど、クロが何も言わなかったのは自分のためだけではない。クロはもうしばらくさくらの友達でいなくてはならない。クロは、さくらのたった一人の友達だから。
「……好きだよ。だから、ちゃんと側にいるよ」
　花が散ろうと、樹が朽ちようと、誰も来なくとも、それでも君に会うためだけ。そのためだけにここに来るよ。
　だから、どうか。君がいつまでも花を咲かせ続けてくれますように。

Fin.