探している相手は人間。それならば猫に聞くよりも人間に聞いた方が確実だろう。
 そう考えたクロは、住宅街の方へと向かった。商店街は人が多すぎて、踏まれそうになって以来行っていない。
「でも、人間がいないなぁ……」
 舗装された道を歩いていくが、誰一人として見あたらない。たまにいても、家の中。窓の外から姿を確認出来る程度。こちらの存在に気づきもしない。
 聞く相手がいないのではどうにも出来ない。どうしようかと思い始めた頃になってようやく人間を見つけた。
「ちょっとそこの人ー!」
 クロがそう声をかけながら駆け寄ると、人間は振り返って少し驚いたように目を見開いた。
 足下まで行くと、人間はその場にしゃがみ込んで「どうしたの?」と尋ねてきた。クロはようやく話が聞けると喜び勇んで問いかけた。
「あの、人を探してるんだけど」
 人間はその言葉に目を細めた。ひょっとしたら何かわかるかもしれない。そんな期待を胸に続きを言おうと口を開いた。
 けれど、人間はクロの頭をそっと撫でた。
「わっ?」
 クロが驚きの声を上げたが、人間は「わー綺麗な毛並みー」と笑っていた。
 状況を理解出来ずに、まばたきを繰り返していると、ひょいっと抱き上げられた。抗議の声をあげようとしたが、そのときになってようやく気付いた。
 人間に猫の言葉が理解出来るはずがないと言うことを。
「ね、君。うちにおいでよ? ご飯あげるよー」
 単純な間違いに気付いたクロの耳には人間の声なんて届かなかった。あるのはせいぜい「何馬鹿やってるんだろう」という思いくらい。
 その後、拾われた黒猫がどうなったかはまた別の話。

Fin.