クロはただ、さくらの目に触れて欲しくないというそれだけの気持ちで。その一心で足に飛びかかった。
 そうすれば止まってくれると思ってた。
 他には何も考えていなかった。
「うわっ!」
 突然のことに驚いた人間は何をするかわからない。状況を把握していれば加減も出来たかもしれない。
 加減が出来ず、力任せに、足に飛びついたものを振り放そうと。
「 ぁ 」
 その身を放り出された黒猫がどうなるか。それはあまりにも想像に容易い。
 小さく軽い身体は宙を舞った。
 青空の下。桜の花びらが舞う中。黒い身体がゆっくりと落ちていく。
 何も出来ずに落ちていく中思ったこと。それは最後まで変わらなかった。
「ごめんね。さくら」
 君のことを想っていたんだけどな。
 君の想いを応援したかったんだけどな。
 ただの黒猫では、無理だったのかな。
 ねぇ、さくら……

Fin.