会場は決して狭いわけではなかったが、過剰な装飾具合と比べると、ずいぶん貧相な印象を受けた。もっと広い会場にするか、装飾を控えめにしなければ釣り合いがとれない。そんな印象だった。集まっている客も地味な色合いをしていて、どこかおかしかった。
そのせいか、真っ赤なドレスをまとっている彼女はひときわ目立っていた。
それはまるで逃げも隠れもする気のない彼女の心をそのまま表してるようだった。周囲は当然のように、彼女がこの場に招かれていない客だとわかっていた。そうでなければ会場の空気はぴりぴりとはしていなかっただろう。
この緊張の糸を断ち切ったのは他でもない彼女だった。
小皿にとった料理がまだ残っていたが、唐突にそれごと皿を放り投げ、ドレスの裾をまくり上げた。
あらわになった腿には、小型だが間違いなく本物の拳銃が一つ、収まっているホルスターがくくりつけられていた。
周囲の客たちが動こうとしたのは、もう彼女が豪奢なシャンデリアに向け発砲したあとだった。シャンデリアが落下し、辺りは闇に包まれた。どこかから「灯りをつけろ!」や「電気はまだ生きているのか?」などという声が聞こえてくる。
その声に混ざって、低い悲鳴が聞こえたが、どこから声が聞こえているのかはわからなかった。
すぐ隣にいた知人に声をかけると、返事の代わりに聞き覚えのある声で低い悲鳴が響いた。身構えるのとほぼ同時に灯りが灯った。メインのシャンデリアが落ちていることもあり、ずいぶん心許ない灯りだったが、何もないよりはずっとましだった。
瞳に映った光景は、倒れている数十の仲間と、地面を蹴り上げた真っ赤なドレスの女の姿だった。状況を理解するよりも先に、女の膝がこめかみに入った。
倒れていく男の肩を蹴り、女は宙を舞った。まだ意識のある男たち数人が銃口を向けたが、女の銃口が先に火を噴いた。
撃たれた男たちが倒れると、その中心にいた初老の男が動揺の色をのぞかせていた。 女はその背後に降り立つと冷たい声で言った。
「手を挙げなさい」
後頭部に突きつけられた硬く冷たい感触、明るくとも暗くとも、それの正体がなんなのかはっきりとわかる。
男は静かに目を閉じ、両手を挙げた。
「……何が目的だ?」
冷静であろうとしていたが、声はわずかにうわずっていた。
その様子を眺めながら、女は口元に笑みを浮かべた。
「身に覚えはいくらでもあるでしょ? そのどれかの制裁よ」
その言葉に目を丸くした男は、後ろを振り返ろうとしたが、それよりも先に後頭部を銃口で叩きつけられた。
倒れた男を見下ろすと、女は改めて周囲を見回した。数十の男たちは全員意識を手放していた。それだけ確認すると、拳銃をホルスターに仕舞い、小型無線機を取り出した。機械越しに仲間の声が聞こえてきた。
「私よ。今終わったところ。それよりもちょっと聞いてくれる? 久しぶりにまともなものが食べられるかと思ったのに、メインが鯖なのよ? しかもどこから仕入れたのか知らないけど、活きが悪いのよ」
その場に残されたのは、意識のない男たちと、女がこぼしていった不満だけだった。
|