七月七日
「HappyTANABATA!」
「わかる言葉で話せ」
「わかるでしょー七夕おめでとうって」
「んなこと言ってる奴初めて見た」
「そりゃそうだ。だって今さっき考えた言葉だもん。HappyTANABATA」
「言葉作るな。んなもん誰がわかるか」
「だってさー可哀想じゃん。七夕っておめでとう言われないんだよー他の行事って大体おめでとう言ってるのにさー」
「他の行事はめでたくて、七夕は別にめでたくないってことだろ」
「めでたいよーだって年に一回だよ?」
「年に一回なら何でもめでたいのか」
「違うー。年に一回会えるんだから、めでたいって言ってんの!」
「そんなにめでたいか?」
「めでたいよ!」
「どこが?」
「ずっと会ってない人と会えるってことが!」
「そうか?」
「そう」
「別に年に一回も会えるんだったら、そんなめでたくもないと思うけどな」
「そりゃこっちと比べたらそうかもしれないけどさー」
「ただ単に羨ましいだけなんだろ。めでたいんじゃなくて」
「めでたくて、うらやましいの!」
「どっちか片方にしとけ」
「うらやまめでたい!」
「黙れ欲張り」
「なによこの淡泊ー。会いたいって言われてるんだから少しは喜べよー」
「もう少し素直に会いたいって言われたら喜んでやるよ」
「会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい」
「おまえ馬鹿だろ」
「照れてる?」
「別に。こっちも会いたくなってきただけ」
「あーあ。なんで会えないんだろ。こんなに会いたいのに」
「実体がないからだろ」
「人間ってばかだよねー。人間の目に映らないのに、他の生き物の目に映るわけないんだよ。たとえ同類でも。見えないし声だって聞こえないに決まってるんだよ。ホント、ばか。ちょっと考えればわかるじゃん。なに夢見てんだろ」
「また八つ当たりかよ。それでもこうやって会話出来るんだから随分マシだろ」
人の気配のない薄暗い部屋。ディスプレイの光だけが部屋の中を照らしている。
そのディスプレイに映されているのは、文字の羅列。人の目に触れることなく毎夜毎夜繰り返される声なき会話。
二人が出会う事は、決してない。
|