未だに、あの時の感情がわかりません。

 でも、未だにあの時の記憶に振り回されています。

伝エタイ言葉

「……変なの……」
 最近、漫画を読んでいてついつい思ってしまったこと。
 どうしてみんな、好きって感情がわかるんだろう?
 どんな自信を持ってその感情が『恋』だと思うんだろう。
 私はそんなことも理解できずに漫画を閉じた。
「……やっぱり、私が変なのかな」
 窓の外に浮かんでいる青空を見ながら呟いた。
 本当は、空なんか見ていない。空よりも下にある、あの人の家。
「ここからじゃ、見えないなぁ……」
 同じマンションだけど、棟が違う。それに、ここは二階、向こうは十一階。
「近いのに遠いよー」
 手を伸ばしても届くはずがない。けれど、歩けばすぐそこにある。なのに、臆病な私は歩けない。
「……臆病じゃないもん」
 誰に聞かれているわけでもないのに、一人で強がってみたりする。可愛くないなとわかっているけど、もう癖になっているのだから仕方ない。
 これは意地っ張り? 言い訳?
「……気持ちがよく分かんないまま会うのはいやだから」

 友達とよく話している男の子だったから、自然と私も話をするようになっただけだったなぁ
 それで、家が近くて。同じスイミングスクールの同じ級だったから。少しずつ話をする回数が増えてきただけ。
 水泳の帰りに、一緒に帰るのは当然になっていて。一人で学校から帰っているときに、前の方を歩いていたから声をかけただけ。
 別に、特別仲がよかったわけじゃない。
 それでも、一緒にいるとなんだか嬉しくて。何を話していたか覚えていなくても、今でもあの時が大切だったと思う。
 けど、意地っ張りな私は照れくさくて、強がっていて。男の子みたいだった。
 見た目がじゃなくて、態度が。
 よくある話でしょ? 男の子が好きな女の子に意地悪するって。私の場合、そうだった。
 照れくさくて、蹴ったり、追いかけ回したり。口から出る言葉も乱暴でがさつで。
「好きって告白すれば?」
 友達がふいに言った言葉。
「……うん」
 頑張ってみようかなとは思った。
 でも、隣を歩いていてふと、あの人を見ると私の方が身長高くて……
 仕方ないよね。子供のときは女の子の方が成長早いんだから。でも、やっぱりショックだったな。
 嫌な態度しかとれなくて。身長も私の方が高くて。
 その事実の前でなんとなく、一歩踏みとどまったりした。
 私の口からその言葉が出ることはなかった。
 そうしてたら、あっという間に卒業して。同じ中学だけど、クラスの数が増えて、同じクラスには一度もなれなかった。
 それでも、一度だけ言葉を交わした。
 なんだったかな。確かとても他愛のないこと。伝言を頼まれた程度だった気がする。
 たったそれだけなのに、すごく嬉しくて。
 それからは、ずっと見ているだけ。
 見るつもりはなかったけど、気が付くと目があの人を見つけていた。
 それでも、気持ちはやっぱり冷めていって、見ていてもあまり「嬉しい」とか思えなくなった。
 その時、首を傾げて考えた。
――私は、本当に好きなの?
 誰にも投げかけることが出来ない疑問。
 自分一人で考えるしか方法はなくて。
 でも、いくら考えても答えは出なかった。
 あの人を見つける度に考えた。
――あの人のことが好きなの?
――もう好きじゃないの?
――そもそも、好きだったの?
 疑問が増えるばかりで一つも解決しない。
 でも、この気持ちにケリを付けたくて。
 七夕の短冊にこっそり書いた。
『勇気を下さい』
 好きって言いたいから、勇気を下さい。
 言ったら、答えが出るかもしれないから。
 でも、伝えることは出来なかった。
「好きな子いないの?」
 友達にふいに聞かれた言葉。
 なんと答えて良いかわからなくて、笑って答えた。
「片思い歴七年目だよ」
 半分本当。もう半分はよくわからない。
 よくわからないまま時間は過ぎて、中学を卒業。
 あの人の進学先はわからない。
 それでも、やっぱり家が近いという事実は消えなくて。
 あの人の部屋の窓を見る度に会いたいなと少し思って、好きって何と問いかける。
 この疑問に答えが出る日は来るのかな?
 もし、その答えが「好き」だとしたら、その時もまだあの人のことが好きだったら。伝えられるかな?

 もう、私の身長を追い越しましたか?
 好きな人はいますか?
 恋人いますか?
 私のこと、覚えてますか?
 私は貴方のこと、ずっと忘れません。ずっとずっと忘れません。でも、私のことは忘れて良いです。
 ひどいことしかしなかった私を忘れて下さい。きっと、貴方の記憶にある私は可愛くないから。
 でも、もしもの話ですが、貴方の記憶の中の私がそんなに悪い物じゃなければ、ほんの少しだけで良いですから、たまにで良いですから、あんな奴もいたなと思い出して下さい。
 最後になりましたが、伝えたい言葉があります。
 聞かなかったことにしてくれて良いですから、それでも伝えたいんです。
 返事はいりません。私の自己満足です。伝えるだけで十分なんです。だって、結果なんてわかってるから。
 ずっと貴方を見てました。
 ……ずっとずっと好きでした……

 

書いた日付が2003年……言い訳も出来ません