君のなく声が、今日も響いている。
やみ・ひかり
いつもと変わらない闇のような世界に、いつもと同じ高い声が響いている。本来なら静寂に包まれているはずの世界を切り裂くような存在。それが日常と化したのはそう昔のことではないはずだ。けれど、いつからか思い出せないのだから、もしかしたら遠い昔のことなのかもしれない。
そんなことはどうでも良いかと思いながら、彼はうっすらを目を開けた。
まぶたをおろそうとも変わらない世界。どちらにしろ瞳に映る世界は闇一色。それでも、彼は両の目で辺りの景色を確認した。どこを見ても広がるのは闇だけでも。
闇以外何もなかったはずの世界。静寂を、平穏を、壊す白い光。光がどれだけ儚いものであっても、世界を完全な闇とは違うものに変えるだけの力はある。その光が、今日もないていた。
彼はその巨体を引きずりながら、光へと近づいた。
長年この世界で生きてきた彼には眩しすぎる光。細めた目に見えたのは白い翼と、小さな身体。声をかけるとその小さな身体はわずかに縮こまった。
何をしているのかと問いかけたが、答えは今日も返ってこなかった。言葉が通じないのかもしれない。けれど、彼はそれ以外の言語を知らない。それ以外の言語があるのかどうかも知らない。それが言語なのかも知らない。
彼が自分の無知さに嘆くことはない。無知だと気付くすべがないから。彼が知っているものは、彼自身と闇の世界、それから、知らない白い光。
そもそもそれを光と呼ぶことさえ知らないのかもしれない。ただ、自分とそれ以外。それだけで十分なのかもしれない。
どこまでも広がる闇を壊す存在。静寂をかき消す高い声。そこにいるのはここで生きてきた彼と、どこかから迷い込んできた光。
そして、今日も君のなき声だけが響いている。
|