えぴろーぐ

 舞台はどこか、地球とは違う世界。
 人間と魔物の住む世界。
 どちらも同じ言語を操る生き物。違いは異形かどうか。
 違いはわずかだが、その壁は厚かった。
 どれだけ想い合っても、壁が消えることはなかった。
 それでも女は男の手を取った。
「例えこれから私が勇者として扱われても、大した権限は持てない。まだこの厚い壁を壊すことは出来ないわ」
 勇者に手を取られ、男は一つ頷いた。
「まだ人間は魔物を恐れている。魔物もまた、人間を恨んでいる。魔王として私がどれだけ言っても、そう簡単に恨みは消えない」
 お互いにわかっていた。
 まだ時期ではないことも、力が足りないことも、気が遠くなるほどの永い時間が必要なことも。
 想いだけでは補えないことも。
 誰よりも魔王を想っていたから、勇者は勇者となれたのに。
 わずかに繋ぐ手に力を込め、勇者は強く微笑んだ。
「私は貴方ではない、別の誰かの子を産むわ。何代先になるかわからないけれど、いつか必ず魔物や人間といった隔たりのない世界を創る」
 魔王は手を握り返し、力強く頷いた。
「今は結ばれることが出来ずとも、いつの日か……その日を信じ、私もお前ではない者との子を作ろう」
 二人でどこか遠いところに行ってしまえば結ばれるのかもしれない。けれど、そんなことは出来ない。二人は魔王と勇者なのだから。互いのためだけに全てを捨てることは許されない。
 そして、互いに想っているが、それと同じくらいに国や民を想っているから。
 真っ直ぐと瞳を覗き込み、勇者は魔王の手に頬ずりした。
「貴方を愛してる。だから今は別れましょ」
「お前を愛してる。だからその日まで……」
 この姿で会うことはもう二度となくとも。
 永遠と思えるほどの時間がかかろうとも。
 それでもいつか、姿を変えて、もう一度出会おう。今度こそ結ばれよう。
 魔物や人間の隔たりが消えた世界で。
 願いを込めて、勇者は剣を広場に突き立てた。操られた魔王を救えるのは、魔王を強く想う者のみ。条件に当てはまる者が現れる時、世界が変わるように。
 きっといつか、時期や力、全ての条件が揃う時が来るであろうと信じて。
 誰もが知る伝説は、誰も知らない願いで始まった。
 そしてその願いが叶うのは、二人が伝説になってしまうほどの未来。けれど三代目勇者が魔王を救った時からは、そう遠くない未来。


 

400字詰め原稿用紙換算枚数234枚。

あとがき
 ここまでお付き合いくださいありがとうございました。
 この話は、知ってる人は知ってると思いますが、サイト開設当初に一度書き上げたものを完全に書き直したものです。加筆修正と呼べないくらいに(笑)
 何を思ったかと言えば、初心に返りたかったんですよね。どれだけ送っても一次選考にすら引っかからないし、ちょっと気分転換も兼ねて。結果は、まぁ、当然引っかかりませんでしたが。そりゃ何年も前に考えた話と設定ですから、無理があるだろうなーとは十分承知でしたし。ただね、うん、書き直して良かったと思う。書きたいように書かなきゃダメだなーって改めて思えた。

 作品全体のノリがあたしの中学高校あたりを思い出します。決して、中高時代がこんなノリだったわけじゃなくって、当時書いてたものは大体こんなノリだった気がするなーという意味で。きっと今となっては作れないノリだなーと。書き直せば、なんとなくそれっぽくはなるんだけれど、今の自分で考えて書き上げたものはきっとこんなノリには出来ないだろうなぁって。
 たまには、またこんなノリのものを書きたいなー。こう……コメディ風味だったりするものを……難しいかなぁ。全体を流れる空気が軽めなものを書きたいなぁ。

 書き始めたきっかけはとても単純。魔王と勇者が仲良しだったら面白いかなぁ。そんな理由で勇者と魔王を紙にらくがきしたのが始まり。最初の落書きでも、勇者は泣いていたし、魔王は退屈そうにしていた。けど、それだけじゃあダメだ。泣き虫なだけでは勇者になれない。やる気がないだけじゃ魔王にはなれない。それじゃぁ勇者に必要なものは、魔王に必要なものは。
 強い想いを持っていれば、いつかきっと叶うと思う。少なくても、あたしはそう思ってる。けれど、想うだけじゃなく、自分で動かなきゃ叶わない。そんなはなしになっていたらいいなぁ。
 これは、勇者と魔王の物語。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

戻る