「思い出したよ! 桜の木の上! 桜の花に隠れてるよ!」 田中ははっきりとそう言った。 だが、上を見上げてみたが、桜の花しか見えなかった。 「ホントにここにあるのか? 大体、桜の木の上でどうやって死ぬんだよ?」 上を見上げながら、木の下をうろうろ歩き回ってみたが、やはりそれらしい物は見えなかった。 それでも、田中はしっかりと言い切った。 「うん、確かにここだよ。だって、全部思い出したから」 全部。 それなら、まずはその話を聞いておこうか。 鈴木がそう思い、口を開きかけたが、田中はそれを遮るように鈴木を呼ぶ。 「鈴木! 木の上にいるから、早く登ってよぉ」 わがままだなぁとは思ったが、自分の身体を見つけることを未練にしているくらいなんだから当然と言えば当然。 話はあとでじっくり聞こうと思いながら、鈴木は桜の木を登り始めた。 その桜は、かなりの大木で高さもなかなかだった。 枝もかなりしっかりしていて、折れる心配はなさそうだった。 木を登りながら、鈴木はふいに首を傾げた。 それにしても、何故田中はこんなところにいるのだろう? 桜の木の上で事故死……は考えにくい。落ちたのならまだしも、木の上にいるらしい。 では、殺された? いや、殺されたとして、こんな木の上で殺されるのはおかしい。下で殺されたとしても、わざわざこんな木の上に隠すか?落ちるかもしれないのに。 色々考えてはみたが、どうも答えは出てきそうになかった。 全部思い出した田中に聞いてみようかと思い、顔を上げたときだった。 「…………田中……」 桜に身を寄せて、静かに目を閉じている田中がそこにはいた。 半分透けていたり、白いワンピースだったりはしない。制服姿の実体だった。 まるで、眠っているようだった。 「田中?!」 今まで側にいた霊としての田中は消えていた。静かに目を閉じている田中しかいなかった。 そのときになって、初めて田中が死んだと言うことを実感した。 慌てて田中の側により、手を伸ばした。 「…………冷たい……」 当然だ。死んでいるのだから。 何も考えられなかった。ただ、つらくて田中の身体を抱きしめていた。 「……あ、の……すずき? 恥ずかしいんですけど……」 「?!」 死んでいたはずの田中がしゃべった。 驚いた鈴木は声にならない声を発して、田中の顔を見た。 「えっと、オハヨ」 いつもと同じ笑顔で、田中は笑っていた。 夢か幻かまた幽霊なのか。 鈴木はしばらく考えたが、どうも現実のようだった。 「え、なんで、死んだんじゃなかったか?」 何がどうなっているのかわからず、鈴木は首を傾げていた。 田中は少し申し訳なさそうにへへっと笑った。 「なんか、死んでなかったみたい。ここで寝てたら幽体離脱しちゃったみたいなんだぁ」 そんな言葉で納得しろと言うのだろうか? はっきり言うが、鈴木は納得できなかった。 「オマエ、『みたいなんだぁ』じゃないだろう! 人のこと散々引っ張り回して勘違いで済ます気か?! 大体、なんでこんなところで寝るんだよ? バカじゃねぇの?!」 一気にまくし立てると、鈴木は肩で息をしていた。 それに対して、田中はそう言われてもなぁと少し困ったような表情を浮かべた。あくまでマイペースだった。 「だって、いきなり幽体離脱なんてしてたら死んだと思うよぉ。そりゃ、勘違いで引っ張り回したのは悪いと思うけど……」 そこまで言うと、田中は桜の花びらを一枚だけ取って鈴木に見せた。 「それから、ここにいたのは桜が見たかったから。側で見たかったからここまで登ってきたの。で、気づいたら寝ちゃってましたということです」 納得してもらえた? と言いたげに首を傾げる田中を見て、鈴木はため息しかでなかった。 たしかに、いくら春だと言ってもまだ寒いのに、外で寝てれば身体だって冷たくなるだろう。 落ち着いていれば気づけたことだ。 それに気づけなかった鈴木も悪い。 そんなこと、頭でわかっていても納得は出来ない。というか、したくない。 「あと、もう少し待ってれば他の桜だって咲くんだから、何もこんなところ来なくたって……」 そっぽを向きながら鈴木がぶちぶちと文句を連ねる。 「だってー」 その文句一つ一つにわざわざ答える田中がそこにはいた。 「見たいって思ったら、すぐに見たいんだもん桜だけは」 横目でちらりと田中を見てから、またそっぽを向いて鈴木は呟いた。 「桜のどこがそんなに好きなんだか」 見られていたことに気づくはずもなく、田中は桜を見ながらへらぁっと笑っていた。 「思い出、だからかなぁ」 「……思い出?」 鈴木が聞き返すと、田中は一度頷いた。 「あれはー、二年前の入学式のことでしたぁ」 そこまで言われて、鈴木は「あぁ」と呟いた。 同じことを、思い出として大切にしてるんだと、気づいた。 「……田中さぁ、なんで俺のところに来たの?」 思い出を語ろうとしたところで、鈴木に問われて田中ははてと首を傾げた。 聞かれたから答えようと思ったのに、途中で別の質問が来たよ。じゃぁ、最初の質問は答えなくて良いのかなぁと首を傾げた。 「鈴木のところに行くのに、理由が必要なの?」 そう来るか、と思いながら鈴木は笑顔で返した。 「答えによって、俺の次の言葉が変わる」 それなら、理由つけないとダメだねぇと呟きながら田中は考え込んだ。 少ししてから、田中はこれで良いだろうと言う答えを見つけた。 「……鈴木に会いたかったから」 そのあとの鈴木の言葉は……それは、二人と桜だけの秘密と言うことで…… おわり。 |
後書き。 これまで見つけてくれたありがとうございます |