散々な目に遭っている槐も可哀想だが、ここで助けに入ったら自分の身も危ないんじゃないだろうか?
さっきなんて、出会い頭に箒で殴り殺されそうになったのだ。
これ以上ここにいたら、またいつ襲われるかわかったものじゃない。
少女は、全力疾走でその場から逃げ出した。
「あ、待ちなさい妖怪!」
背後から初音の声が聞こえたが、少女は更に速度を上げた。なぜなら、身の危険を感じたからだ。
振り返らずともわかる。追いかけてきてる。箒を持ってる。追いつかれたら殴り殺される!!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 殺されるーーーー!!」
「誤解されるようなこと叫ぶなぁぁぁ!」
初音は少女に箒を投げつけた。
俗に言うクリティカルヒットだった。
「あ」
あまりにも盛大に当たって、初音もさすがに少し焦った。相手が槐ならまだしも、妖怪とは言え女の子の頭に向かって全力で投げつけてしまったのだ。
慌てて倒れた少女に駆け寄ったが、そこに少女の姿はなく。仔狐が倒れていた。
化け狐だったのかとも思ったが、そんなことよりも早く介抱しなければと思い、仔狐に手を伸ばしたときだった。
「……ここ、は?」
仔狐は目を覚まし、あたりを見回しながら呟いた。
良かった、大したことなさそうだと初音は安心していたが、残念ながらそうはいかなかった。
「あなた、誰?」
初音を見つめながら首を傾げた。そして、更に消えそうな声でもう一言呟いた。
「わたしは……誰?」
「…………」
それから妖守神社に、記憶喪失の化狐の居候が加わったとか加わってないとか。
おわり
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