時は昔かもしれない。
 日本によく似た、別の世界。魑魅魍魎が世間を騒がせている世界。
 その世界にある、とある神社から話は始まる。
 神社の名前は……

「はぁー……天気悪いなぁ……」
 境内の掃除をしながら少女―初音はため息を吐いた。
 今にも雨が降り出しそうな程に、雲行きは怪しい。何となく、初音は嫌な予感がしていた。嫌な予感と言うよりも、面倒なことが起こりそうな予感。
 知らず知らずのうちに、またため息が漏れた。
「何だろうなぁ……またあの馬鹿神主が何かするのかなぁ……」
 巫女としては、自分の神社の神主を悪く言いたくないのだが、仕方ないのである。悪い予感がするときは、九割神主が何かをやらかしてくれるのだから。
 そんなことを考えていると、つい箒を持つ手に力が入る。危うく、箒を折ってしまいそうになったが、そうなる前に何とか我に返ることが出来た。
「危ない危ない。箒折ったら、また面倒事が増えちゃう」
 この神社にいると、ただでさえ面倒なことが多いのに、ここで更に自分の首を絞めるほど初音は馬鹿じゃない。
 それから、初音は頭を大きく振って気持ちを入れ替えた。
「うだうだ考えずに、ちゃっちゃと掃除終わらせますか!」
 再度、掃除を始めようとしたときだった。
「あの、すみませんが……」
 やけにか細い少女の声。
 振り向く前に、想像できる。
 普通の神社じゃないこの神社―妖守神社特有のお客様がいらっしゃったのだと。
 嫌な予感がしたときの、神主が関係してない残り一割。いや、これも考えようによっては神主が関係しているのだが。
 仮にもお客様なので、ため息を吐くわけにもいかず。初音は、手にしていた箒を握りしめ、声の持ち主の方に振り向いた。

 

「喰らえ、妖怪め! 正義の鉄拳箒あたーっく!」

「どのような妖怪退治のご依頼ですか?」