「どのような妖怪退治のご依頼ですか?」
 すると、目の前の少女はひどく驚いた表情をした。
「ここに参拝を目的としてくる人はほとんどいらっしゃらないので、わかっただけですよ」
 初音は、少女が言わなくても驚いた理由はわかった。ほとんどのお客が驚くのと同じ理由だと。
 この神社に来る人間は二種類。妖怪退治の依頼か、参拝か。だが、後者はほとんどなく、来たとしてもわざわざ巫女に声をかける必要がない。巫女にわざわざ声をかける必要があり、なおかつその声がわずかに強ばっていれば依頼に決まっている。
「私は、初音と言います。あなたは?」
 少女の緊張を少しでも崩そうと、初音はやんわりと微笑んだ。
「あ、私は花月と申します」
 花月は深々と頭を下げてから、ようやく依頼内容を話した。
「実は、私の仕えている姫様のことなのですが……」
 そこまで言われて、初めて初音は気づいた。花月の着ている物がそれなりに上等な代物だということに。どうやら、姫に仕えているというのは本当らしい。
「その姫様が、鬼に狙われているようなのです」
 貴族という生き物は、妖怪に狙われやすい。理由は様々だが、責任が人間の側の場合もあるのでそう簡単に引き受けるわけにもいかない。
「具体的に、何かあったんですか?」
 すると、花月は小さく頷いた。
「二週間ほど前の満月の夜でした。突然姫の部屋に姿を現し、次の新月の夜にまた来ると言って……」
 突然……
 これでは、何故狙われているのかもわからない。もし仮に人間の側に原因があったとしても花月にはわからないだろう。それに、
「新月って、今夜じゃないですか?」
 初音の言葉に、花月はそうですと頷いた。
 そうなると……

 

「わかりました。これからそちらのお屋敷に行きましょう」

「申し訳ありませんが、このご依頼は受け付けられません」