「わかりました。これからそちらのお屋敷に行きましょう」
 初音のその言葉を聞くと、花月はありがとうございますと何度も頭を下げた。
 だが、初音しか来ないとわかると不思議そうな表情をした。
「……初音さんは、巫女様ですよ、ね?」
 女一人で妖怪を退治できるのかと疑問に思っているのだろうか。巫女ではなく神主が退治をするものだと思っていたのだろうか。どちらにしても、初音は笑顔を浮かべて答えた。
「今、神主が出掛けてまして……私一人でやらせてもらいます。でも、ご心配なさらず。実績はありますから」
 笑顔を浮かべてはいるが、初音は心の中で毒づいた。
 妖怪退治をするようになった原因が、何でこう言うときに限って留守にするかな! 大体、神主が留守って何なのよ! ちゃんとした理由ならまだしも、どーせフラフラ遊び呆けてるんでしょうが!
 そんな初音の心うちなど知るはずもない花月は、もう一つの疑問を口にした。
「あの……何故箒を?」
 初音の手には何故か箒があった。
 念のため言おう。これから初音が行うのは妖怪退治である。決して掃除をするわけではない。では、何故箒を持ってきているのだろう。
 初音はにっこりと微笑んだ。
「仕事道具ですから」
 箒で退治するのだろうかと、花月は少しばかり不安になった。

 初音が案内された屋敷は、街の外れにはあったが、おそらく街で一番立派であろうと思えた。
 想像以上に身分は上のようだ。
「初音さん、まずは姫の部屋に案内致しますね」
 屋敷の門をくぐりながら、花月は初音に声をかけた。
「ぁ……」
 どうしようか。
 姫の話を先に聞いておいた方が良いか、それとも屋敷の中を回って狙われる原因になりそうなものを探すか。

 

「そうですね。姫の部屋まで案内してください」

「いえ、まずこの屋敷の中を案内してください」