「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」
出来るだけ警戒させないように、明るい声で話しかけた。
話し合いで解決できるのなら、そうするに越したことはない。
「あなたは、何で秋雨を狙うの?」
「貴様なんぞに教えてどうする」
鬼は初音を見下ろしながら尋ねた。警戒はされていないが、見下されているようだった。相手は教えてくれる気が全くないようだ。これでは話し合いも何も出来はしない。
「秋雨はどこだ」
そもそも、相手が話をする気を持ち合わせていない。
初音はため息を吐いてから、吐き捨てた。
「私を倒したら、どこにいるか教えてあげるわよ」
すると、鬼は初音を見下ろして笑った。
「人間の小娘風情が生意気な」
笑われても、仕方あるまい。見た目は箒を持ったただの巫女なのだから。
箒を持ち直して初音は微笑んだ。
「ただの人間の小娘なら良かったんだけどね」
空気が一瞬にして変わった。
鬼もそれに気づいたらしく、初音を見下ろす眼が変わった。
「小娘、貴様は……」
「言ったでしょ?」
箒を軽く振り回しながら初音は答えた。
「初音よ。妖守神社の巫女・初音」
鬼がその答えに反応する前に、全てが終わった。
初音が箒を振り下ろしたと同時に、鬼は塵となって消えた。一瞬だった。何が起こったのか説明できる者はいないだろう。
「……悪いことしたかな」
風に舞う塵を眺めながら、ぼんやりと呟いた。
普段の初音なら、こんな片づけ方はしなかっただろう。初音にも自覚はある。力が入りすぎていた。
「ごめん。八つ当たりだ……」
この場にもういない鬼に対して、小さく謝った。
おわり
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