目を開けると、そこには青空が広がっていた。雲一つ無い青空。見事なまでに青かった。
 四方を白い建物に囲まれているらしく、空が白い額にでも入ってるように見える。
 背中には乾いた草の感触。
 頬に触れる風が心地よい。
 思わず、もうしばらくこのままでいたいと思った。
 勇は瞳を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
 そういえば、どうしてこんな所にいるのだろう?
 勇の記憶の中には、こんな場所存在しない。
 そもそも、学校から真っ直ぐに家に帰るはずだから、空を見上げて寝転がっているはずがない。
 そんな事を思いながら、今日一日を思い返す。
 ――そうだ。今日は転校生が……
 そこで一気に全てを思い出した。
「大空!」
 飛び起きるとほぼ同時に、思わずその名を呼んだ。
 けれど、亜緒の声が返ってくるよりも先に、聞き覚えのない声がした。
「……姫……様?」
 反射的に声のした方を睨み付けた。
 そこには、一人の女が立っていた。
 少女と呼んでも差し支えのなさそうな顔立ち。一つに束ねた空色の髪。深い蒼の瞳。やはりゲームか何かから抜け出したような純白のドレス。
 今し方、『姫』と呼んだのは、間違いなくこの女だった。
 まだ目の覚めていない亜緒をかばうようにし、女を睨み付けた。
 わからない事は山ほどある。
 何故亜緒が『姫』と呼ばれるのか、ここはどこなのか、亜緒は何者なのか。何一つわからない。
 けれど、そんな事今はどうだって良い。
 勇の頭にあるのは唯一つ。
 亜緒の事を『姫』と呼ぶ相手には、注意した方が良い。
 確信はない。けれど、先ほどのことから考えて、そう判断した。
「……大空に、何の用だ?」
 睨まれているにもかかわらず、女はやんわり微笑んだ。
「ご安心ください。姫様に危害を加えるつもりはございません」
 そんな言葉、信じられるかと思った。
 けれど、その思いとは裏腹に何故か、信じられると思ってしまった。
 その笑顔と言葉に、嘘を感じられなかった。何故か、彼女は信じても大丈夫だと思った。
「なんかあったら、容赦しないからな」
 もう一度睨み付けてから、勇は女に道をあけた。
 深々と礼をすると、女は亜緒に近寄った。
「……解放しすぎて疲れただけ、ですね……」
 眠っている亜緒の様子を見て、女は安堵の息を吐いた。それから、ちらりと勇の方を見た。
「? なんだよ?」
「……地球の方、ですよね?」
 その言葉は、尋ねると言うよりも、確認するようだった。
 勇は眉をひそめて、少し考えていた。
「……やっぱり、ここは地球じゃないんだな?」
 そんな予感はあった。
 むしろ、先ほどのティエラが地球の人間だと言われるよりも、ずっと現実的だと思う。
 まっすぐに女を見据え、勇は言葉を続けた。
「じゃぁ、ここはどこなんだ?」
「地球とは異なる時空に存在する国です」
 それは、わかりやすくいうところのパラレルワールドというもので、地球とは異なる次元の世界だと言われる物。
 勇は少し頭を抱えていたが、やがて顔を上げて、女の言葉の次を促した。
「……それで? ここは何なんだ?」
 笑顔を浮かべたまま、女は言葉を紡いだ。
「女神ブルー・エターナリア様を創造主とする国、ブレスタローネ」
 そこで一度言葉を切り、女は空を見上げた。雲一つ無い青空を。
 それにつられ、思わず勇も青空を見上げた。見事なまでに青い空を。
「永遠の青空を持つ国、ブレスタローネです」
「……永遠の、青空?」
 不思議そうに空を見上げている勇に、女が言葉を返そうとしたときだった。
「ただいま、ガディー」
 二人が振り向くと、そこには目を覚ました亜緒の姿があった。

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