くえすと4.正しい勇者の悩み方

 物心付く頃には、もうすでにその物語を何も見ずに云えていた。
 何度も読み聞かされたせいか、幼心に一つの思いがしっかりと根付いていた。
「私は絶対に勇者になる」
 魔王が現れたと聞いた時、真っ先に城下町の広場に向かった。自分には剣が抜けると信じていた。
 けれど、剣はびくともしなかった。
 これほど勇者になりたいと思っているのに。
 その思いを全て叩き壊すかのように、二代目勇者が現れた。彼は剣を抜かずして勇者になった。
 悔しかった。
 勇者になると言う自分の夢が壊されたから。勇者は剣を抜いた者だという伝説を壊されたから。
 それでも伝説を信じたかった。ひたすらに信じていた。
 彼は勇者。なぜなら世界を救ったから。けれど真の勇者ではない。きっといつか、剣を抜く真の勇者が現れる。
 勇者を夢見ていた少女は、いつしか真の勇者の誕生を、その活躍を、誰よりも近くで見たいと願うようになった。
 そのためには力が必要。物理的な力だけではなく、地位や権力といった目に見えない力。
 夢を叶えるために、上へ上へと。その結果得られたものは王国史上最年少の将軍の地位と、いずれ伝説となる物語の登場人物の座。

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