青空を覆い尽くすほどの魔物の群。彼らが降り立った城下町には人の気配一つなかった。将軍が自分の身に鞭を打って、ひたすらに走り続けたおかげで魔物より先に城へたどり着けたおかげだ。それがなければ魔物が到着する前に城下に住む民全員を避難させることは出来なかった。 魔王唯一の側近は部下からの報告を誰もいない街の中で聞いた。 「恐れをなして逃げたか」 嘲るように鼻で笑うと、彼は部下に「まずは城へ向かう」と言い渡した。 少し驚いたような表情の後、何か言いたそうに口ごもる部下に視線をやった。言葉はなかったが、その視線は「言え」と言っていた。 「あの……魔王様の指示を仰がなくてよろしいのでしょうか」 上司の後方へと視線をやった。そこには口を閉ざし、ただ座っているライラの姿があった。 部下の言葉を聞き「あぁ」と小さく笑った。視線だけを魔王の方にやり「魔王様は私の判断に全て任すと仰った。心配するな」と言った。 聞こえていたのか、ライラはこくりと小さく頷いた。瞳に感情はなく、ダークネイビーの髪が揺れただけ。まるで人形のような動作だった。けれどその違和感に誰も気付かない。 魔物達は真っ直ぐに国の中心へと、城へと向かった。 輿のように玉座ごと運ばれるライラの意識はここではないどこかへ飛んでいた。それは世界から見れば近く、当人にしてみれば遠いところ。そこはあの懐かしい日々だった。 |