空が赤く染まる頃には、フェイラ王国城内は魔物達に占拠されていた。白を基調とした内装が夕日で真っ赤に染まっていた。
 予想していたよりも呆気ない展開に魔物達は少々不満そうだった。思うままに奮おうとしていた力を持て余してしまい、つまらなさそうだった。
 不満げな魔物達を横目に、彼は楽しそうに笑みを浮かべた。
 余計な力など使わずに制圧出来たことに対する喜び。これから先のことを考える愉しみ。何より、思い通りに事を運べるという事実。それらを思うだけで自然と笑みが浮かんでくる。
 唯一の側近という立場を使い「玉座には誰も近づくなと魔王様が仰っていた」と魔物達を遠ざけた。
 玉座の間には、ぼんやりと空を見つめるライラがいるだけだった。意識は一向に帰ってこない。意識を戻す方法は唯一つ。けれどそれをおこなうものは誰一人として存在しない。予測ではあったが、ほとんど確信に近かった。
「ようやく幸運が回ってきたようですね」
 玉座に身を沈めているライラに男は笑いかけた。
 これほどの幸運は余程偶然が重ならなければやってこなかっただろう。これほどの幸運を逃す愚か者がどこにいるというのか。
「誰も貴方の意識を戻さない。そして、勇者は貴方を殺せない」
 幼なじみだと聞いた。現に二人のやりとりを見ていれば、勇者がライラを殺すことはないと簡単に予想出来る。もし別の勇者だったら魔王は殺されたかもしれない。他の誰かが魔王を殺そうとしても、おそらく勇者が止めにはいるだろう。全くもって幸運なことだ。
「貴方がこの状態で生きている限り、私が全ての実権を握ることが出来る。貴方には心から感謝しますよ」
 小さく響く笑い声は誰の耳にも届かなかった。
 届いているはずのライラは変わらずに、何も映さない灰色の瞳で空を見ていた。

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