くえすと5.正しい伝説の作り方

 父親がまだ存命だったほど昔。
 書庫の奥底から出された一冊の書物。それを読み胸にわき上がった思いをはっきりと口にした。
「絶対に、勇者を死なせない」
 その言葉に父は、一国の王としてではなく、一人の父親として笑みを浮かべた。
 一人を犠牲にして国を救うなんて考えは持ちたくなかった。
 王がすべきことは国を、国の平和を守ること。唯一人の勇者の命も守れずに、国を守れるだろうか。
 いずれ王になる者としては、あまりにも優しすぎる。けれど、父としてはわが子の優しさに喜びを憶えた。
 犠牲を一つも出さずに国を保ち続けるのは不可能に近い。そのことを自分が玉座を降りるまでに教えなければと思いながら、我が子の頭をそっと撫でた。
 父は知らなかった。
 玉座を降りることが近いことを。そして、我が子の思いの強さを。

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