到着早々の話し合いでも大した成果は得られなかった。マリュにはよくわからない国のお偉い方が数多くいたが、皆は口を揃えて「魔王を殺せば良い」と言う。魔王は幼なじみで害はないと言っても聞きはしない。
「今、城は魔王に占拠されていると言うのに?」
 操られていると言っても誰一人納得しない。当然かもしれない。勇者とは言えただの少女の言葉を信じられるはずがない。例え信じたとしても、魔王を倒す以外に方法が見つからないのだから変わりはしない。
 最終的にマリュは、明朝城内へ向かうこととなった。
 そのことを考慮してか、話し合いは早々にお開きとなった。マリュはため息しか出ない身体を引きずってその場を離れた。体も心も疲れ切っていた。
「……どうしよう」
 明日ライラに会ったとしても、何をすればいいのかわからない。話をしたくらいでライラが元に戻るとは思えない。とは言え、他に何をすればいいのか見当もつかない。
 ライラが戻らない場合、最悪……
「……」
 鞘に収まったままの剣に視線を落とした。出来ればこんなもの抜きたくない。甘い考えだと言われるかもしれないが、マリュにはどうしても出来なかった。
 自然とため息がこぼれる。
「あの、マリュさん?」
 後ろから軽く肩を叩かれた。その声はナリアのものだった。
 マリュは驚いたように振り向き「ナリア、どうしたの?」と尋ねた。先程の話し合いにはナリアも加わっていた。もし用件があったのなら、そのときか直後に言えたはずだ。わざわざマリュの後を追ってくる必要はないはずだ。
 声をかけてきたのはナリアの方なのに、言いづらそうに少し視線を彷徨わせていた。
「明日のことなんですが……」
「あした?」
 なおさらおかしいことだった。話し合いで扱った内容は主に明日のこと。話し合いの最中に意見を出せばよかったのではないだろうか。
 首を傾げるマリュに返す言葉を選びながらナリアは続きを口にした。
「早朝……日の出前に、城へ向かいませんか? 誰にも秘密で」
 ラベンダーの瞳が真っ直ぐとマリュを見ていた。その瞳は先程まで彷徨っていたとは思えないほど真っ直ぐに何かを思っていた。
 少しまぶたを閉じ、何かを考えるようにして、それからゆっくりとナリアの瞳を見た。
「うん。わかった」
 誘いを断る理由は何もなかった。

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