おめでとうございます!!!
当たりです!!!!

 

 裕太は中庭を歩いていた。
 中庭と言っても、なかなか広い。
 ひょっとして、病院の敷地の三分の一は中庭じゃないかってくらい広い。
 しかも、結構木が生えていて、小さな林みたいな感じだった。
 その辺の公園なんかよりずっと良い場所だった。
 だが、林の中の至る所にあるベンチで寝てしまった患者を看護婦が必死に捜していることもあるぐらい、人を捜すのが大変な場所でもあった。
「猫ーネコー!いないかー?ねこー?」
 猫を探しながら、そう言えばなんて言う名前なんだろうと思った。
 黒い猫だということ以外は何も知らないのだ。
 ふと前を見るとベンチに座っている少女を見つけた。
 裕太と同い年ぐらいだろう。
 うつらうつらと夢の世界に旅立ちかけている。
「……?」
 目の前を通り過ぎようとしたがふと、その少女がおかしいことに気付いた。
「耳…………?」
 黒い猫みたいな耳が頭から出ていた。
 その耳をじっと見ていると、少女は眠そうに目をこすった。
「んー……ねむぅー……」
 少女が現実に戻ってきたことに少し驚きながら、裕太は少女の耳を観察していた。
 ぴくぴくと動いていた。
 よく見れば黒いしっぽもあった。
「……」
 少女はようやく裕太の視線に気付いた。
 そして不思議そうに首を傾げた。
「……何見てるの?」
 まだ少し眠いらしく瞳がとろーんとしていた。
「ん……あー……耳と……しっぽ」
 自分に聞いているのがわからなかった。
 まだ半分夢の世界にいて、寝言なのかと思った。
 だが、それは別に自分に聞いていたわけではなかったらしい。
「…………………え?私の言ってることがわかるの?!」
 目の前の少女は答えが返ってきたことに驚いたらしく、手をぱたぱたさせていた。
 それが不思議で仕方なかった。
「は?わかるに決まってるだろ?」
――って言うか、独り言のつもりだったのか?
 裕太がそう言うと少女は不安そうに自分の顔とか、頭とかを触って、自分の身体をじっと見ていた。
 そして、顔面蒼白で泣きそうになりながら裕太を見上げた。
「……見た?」
「…………何を?」
 何をさして『見た?』と聞いているのかわからなかった。
 だが、少女は耳を寝かせ、しっぽも力無く垂らせ、瞳に涙をためて呟いた。
「………………どーしよー………」
 どうすればいいのかわからず、口を開くべきか悩んでいた裕太だったが、とりあえず何か言わなきゃいけない気がしたので口を開こうとした。
 だが、開かれた口からは言葉が発されなかった。
 目の前の少女がぽんっという軽い破裂音と煙を立てて黒猫になったからだ。
 開かれた口は顎がはずれて、言葉を発せられる状態ではなかった。
 黒猫がベンチから飛び降りてどこかに向かって駆け出した。
 それを見て、裕太は思いだした。
 自分が黒猫を探していたことを。
「ちょっ!!待てよ!!」
 慌てて黒猫の後を追いかけた。
 が、すぐに猫を見失ってしまった。
 前にも書いたが、この中庭は広い。
 しかも、林みたいになっている。
 人を追いかけるには最悪の場所だった。
 そして、見失った人を捜すのはもっと大変だった。
「くそ!せっかく見つけたと思ったのに!」
 あの猫が本当に朱夏の猫だという保証はない。
 だが、何となくそんな気がしたのだ。
 仕方なく、さっきの黒猫を探すためにまた歩き出した。

 

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