続きの続きです

 

 しばらく歩いていくとベンチに座ったまま眠っている少女を見つけた。
 さっきの猫もこんな感じだったよなーと思いながらその前を通り過ぎようとした。
 その少女の顔を見た瞬間、顎がはずれそうになった。
 さっきの猫と全く同じ顔だった。
 違いは、どこかの学校のセーラー服を着ていることと耳もしっぽもないことだけだった。
「……中学生?」
 てっきり小学生だと思っていたのに相手はどうも年上だったらしい。
 イヤ、この際それはどうでも良い。
「オイ!こら!!起きろ!猫!!」
 頬をぺしぺしと軽く叩きながら少女を起こした。
「にゃぁ……?もう朝ぁ?」
 眠そうな声を上げて少女は伸びをした。
 そして裕太の顔を見て首を傾げた。
「……誰?」
「忘れるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 結構ショックだった。
 ついさっき同じ様なことを繰り返したばっかりだというのにもう忘れられたなんて。
 だが、少女はそれでも不思議そうにしていた。
「んー?会ったことあったっけぇ?」
 完璧に忘れられてる。
 屈辱だった。
「……っざけんなぁぁぁぁ!!!化け猫のくせに人の顔忘れやがってぇぇぇ!!何様のつもりだぁぁぁぁ!!!」
 そう言われても少女はいまいち思い出せないらしい。
 必死に首を傾げていた。
「…………?」
 ふと、何か思いだしたのか裕太を見つめて口を開いた。
「……化け猫って何のこと?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
 呆れた。
 この化け猫は自分が化け猫だという事すら忘れたのか?
 ひょっとして俗に言う記憶喪失という物ではないのか?
 そう思いながら裕太は少女の質問に答えた。
「さっき……人間から猫に変身しただろ?それを世間一般では化け猫っていうんだぜ?」
 それを聞き少女は更に首を傾げた。
 首が取れるんじゃないだろうかってくらい首を傾げた。
「私……猫に変身なんて出来ないよ?」
 うーんとうなりながら「人違いじゃないの?」と言った。
 そして、少女はぴょこんとベンチから降りた。
「化け猫さん探すんなら手伝うよ?」
 少女はにこーっと笑いながら言った。
 実はこの少女はあの化け猫がばれないように演技している物だとしたら……
 裕太は一瞬そう考えたがすぐにそれはないだろうと思った。
 悪いが、そんなに頭のいい少女には見えなかった。
「あー……じゃぁ、手伝ってもらうよ」
 一人で探すよりはいくらか効率がよくなるかもしれない。
 多少の期待を胸に裕太は少女に手伝ってもらうことにした。
「私、いちごって言うの。よろしくね?」
「俺は裕太。よろしく」
 そして、この数分後に裕太はひどく落胆していた。
 自分の考えの甘さに悲しくなっていた。
 効率はよくなるどころか悪くなっていた。
 いちごが何かにつけて寄り道をするからだ。
 「花があるー」と言って花の方へ行き、「鳥さーん」と言っては鳥を追いかけ。
 無駄足ばかりだった。
「……こんなんで猫が見つかるのかよ……」
 むちゃくちゃ不安になった。
 そしてその不安は着々と増していった。
「ねー、裕太くーん。ちょっとしつもーん!!」
 裕太の前方を歩いていたいちごが裕太の側まで戻ってきた。
「化け猫さんってどんな猫さん?」
「……………………は?」
 裕太は一瞬自分の耳を疑った。
「だーかーらー。化け猫さんの特徴。なんかない?」
 裕太は一人深いため息を吐いた。
 泣きたくなった。
 どんな猫かもわからず探していたというのか?
「……黒猫……」
 消えそうな声で言うが、いちごはそんなこと気にしなかった。
「んー……黒猫さんって言うとー……」
 ちょこちょこと木の陰とかを探しながら歩いていたいちごだったが、しばらくすると裕太のところに戻ってきた。
「そういえばねー。さっき私が座ってたベンチの下に黒猫さんがいたよー」
「……………………………………………………………………………………………………………もっと早く言えよ!!!!!」
 二人は慌ててさっきのベンチまで戻っていった。
 祈るような気持ちでベンチの下を覗くと黒猫がいた。
「……よかったー……」
 一気に疲労が襲ってきて裕太はその場にへたりと座り込んでしまった。
「いちごー、ご苦労さまーもう帰って良いよ」
 へろへろになりながらも裕太はいちごに声をかけた。
 すると、いちごは両手をぱたぱたさせて抗議した。
「やだー!化け猫さんが化けるところ見てみたーい!!」
 そう言われて仕方なく裕太は猫を起こすことにした。
「おーい、猫ー!起きろー!起きて化けろー!」
 猫がふわぁとあくびをした。
 そして、裕太の顔を見ると真っ青になって逃げ出した。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!待てよ!!!逃げるなぁぁぁぁぁ!!!!」
 慌てて裕太は猫の後を追いかけた。
 いちごはその二人(?)の背中を見送っていた。
「……私……どうすればいいの?」
 追いかけようにもどこに行ったかわからない。
 ここで待っていても戻ってくる保証がない。
「いちごー!いちごどこー?!」
 どこかから声が聞こえた。
「あ!梨乃ちゃんに美桃ちゃんだ!はーい!!ここだよー!!!」
 いちごは立ち上がり、声の主を捜しに行った。

 

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