続きの続きの続きです

 

「待てよ!!待てってば!!」
 裕太は必死だった。
 逃してたまるかって気分だった。
 猫だけを見て走っていたせいだろう。
 周りの風景が変わっていることに気付かなかった。
 ふと、視界が遮られた。
 猫と裕太の間に誰かが入ってしまったのだ。
 それに気付いて、裕太は慌てて止まろうとしたが遅かった。
 ドンという音を立てて裕太は誰かにぶつかった。
「ったー……!!って!あの、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
 鼻を押さえながら立ち上がったが、すぐに自分が悪かったと言うことに気付き謝った。
 そして、謝ってから気付いた。
「……あれ?」
 周りの風景が変わってしまっていることに。
 いつの間にか室内だった。
 そして、自分がぶつかったらしい目の前にいる人物に。
 目の前にいる人は男の人だった。お兄さんと呼ぶのに少しためらう感じだった。
「あぁ。それよりオマエの方が大丈夫か?」
 目の前の人はそう言って手を伸ばしてくれた。
 その手はとても大きかった。
 それはこの人を見たときからきっと手が大きいという考えがあったから別にすごいとも思わなかった。
 ただ、問題は手が大きいだろうと言う考えが無意識でもあったということだ。
 その考えがあった理由はきっとこうだろう。
 目の前にいる人がとてつもなく大きな人だから。
 多分、身長2メートルはあるだろう。
 そしてなによりも、注目すべき点は筋肉だった。
 素晴らしくムキムキだった。
 ボディービルコンテストに出たら絶対優勝できるだろうってくらいムキムキだった。
「これからはちゃんと前見て走れよ?」
 そう言われて裕太は思いだした。
 さっきまで猫を追いかけていたことを。
「ネコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
 慌てて猫を探すが、もう猫の姿はどこにも見えなかった。
「……………マジで?」
 今度こそと思ったのにまさかまたしても見失うなんて…
 がっくりと肩を落としているとムキムキさんが心配そうに声をかけてくれた。
「……おい、どうした?大丈夫か?」
「……は……はぃ……」
 返事に力はなかった。
 それを心配してムキムキさんが何か言おうとしたときだった。
「あれー?鉄パイプの人だぁ」
 目の前に少女が立っていた。
 裕太より少しだけ年上だろう。
 ただ、気になるのは髪の色とか瞳の色とか服装だった。
 ムキムキさん……鉄パイプの人の場合はその筋肉の方に目がいってしまい気にならなかったが何かがおかしい。
 今の日本ではあきらかにおかしい格好だった。
 あえて言うならゲームの世界みたいだった。
「俺は鉄パイプの人じゃねぇ!!俺の名前は……」
 鉄パイプの人が抗議しようとしたとき、少女は裕太を見ながら首を傾げていた。
「ねぇ、この子だぁれ?」
 少女は裕太を指さして鉄パイプの人に尋ねた。
「イヤ、知らねぇ。さっき俺とぶつかっただけで知らない奴だよ」
 少女は「ふーん」と言ってから裕太に微笑んだ。
「初めまして。私マリュ。あなたは?」
「あ……俺は裕太。……で、ここどこ?」
 マリュはきょとんとして鉄パイプの人の顔を見てから裕太の顔をもう一度見た。
「ここはフェイラ王国のお城の中だよ?そんなことも知らないなんてユータさん何者?」
 ちんぷんかんぷんだった。
「えーっと……一応、日本人ですけど?」
 裕太が自信なさげに答えるとマリュと鉄パイプの人は顔を見合わせて首を傾げていた。
「ねぇ。鉄パイプさんはニホンジンって聞いたことある?」
「いや、俺も初めて聞いた……って、だから俺の名前は鉄パイプじゃなくて!!」
 鉄パイプの人が何か言おうとしたがその前にマリュは裕太の方に向き直っていた。
「ねぇ、ユータさん?ニホンジンってなぁに?」
「いや……その前に、フェイラ王国って何?」
 裕太とマリュはお互いに疑問を投げかけてみたが返事は返ってこなかった。
 改めて何と聞かれてもどう答えて良いものかわからなかった。
 困った二人は鉄パイプの人に助けを求めることにした。
「……俺に聞くな」
 即答だった。
 思わず泣きそうになるマリュを見て鉄パイプの人は慌てて言った。
「俺はわかんねぇけどな!将軍とかに聞けばわかるんじゃねぇか?」
「あ!そうだね!ナリアなら知ってるかもしれないよね!鉄パイプさん頭いー!!」
 一瞬にして泣き顔から笑顔に変わったマリュに鉄パイプの人は安心と呆れと照れの混じったような顔を向けていた。
「マリュさん?何かご用ですか?」
 どこからともなく少女の声が聞こえた。
「ナリア!!」
 マリュが振り向くと眼鏡をかけた少女が立っていた。
「今、私を呼びませんでしたか?」
 ナリアと呼ばれた少女は不思議そうに瞳をマリュへ向けた。
「うん!あのね、ニホンジンって知ってる?!」
「え?……いいえ。聞いたことありませんが?」
 あまりのも唐突な質問でナリアは呆気にとられていたがすぐに首を横に振った。
 それを聞きマリュはがっくりと肩を落とした。
「そっか……ナリアも知らないのかぁ……」
 そんなマリュの様子を不思議そうに見ていたナリアだったがふと裕太に気付いた。
「…………どちら様でしょうか?」
「あ!その子はニホンジンのユータさん!フェイラ王国を知らない人なの!」
 ユータに答える暇も与えずマリュが説明していた。
 それを聞きようやくナリアにも状況が理解できてきた。
「では……王様にお伺いしてみましょうか。王様ならニホンジンという物を知っておられるかもしれませんし」
 そう言うとナリアはマリュと裕太を連れて玉座の間へと向かった。
 鉄パイプの人は置いてけぼりです。
 それほど歩かないうちに三人は玉座の間に着いた。
「王様。マリュ様とそのお知り合いの方をお連れしました」
 ナリアの言葉を聞き扉が開いた。
 裕太は扉が勝手に開いたのかと思ったが扉の影から人が出てきたのを見て違うと言うことを知った。
 扉の影から出てきた人は「どうぞ」と三人を部屋の中へと促した。
 玉座の間は広くて大きかった。
 それを見て改めてここは日本じゃないんだなと裕太は思った。
「王様、本日は……」
 ナリアが何か言おうとしたが言葉を途中で誰かが遮った。
「いいよ、そんなに堅苦しくしなくて。どうせここには僕達以外誰もいないんだから」
 少年の声だった。
「はい、実は……お伺いしたいことがありまして……」
 ナリアがそう言うとふと、玉座に座っていた人が立った。
 薄暗くて顔はよく見えないが多分、王様だろう。
「珍しいね。ナリアが聞きたいことだなんて……僕で答えられることだと良いけど」
 近くまで来てやっと王様の顔が見えた。
 その王様はさっきから聞こえていた声の主らしい少年だった。
「な?!!!!」
 裕太は思わず声を上げそうになったが、はっと気付き慌てて口を押さえた。
「……こちらがマリュの知り合いかい?」
 王様が不思議そうに裕太の方を見ていた。
「うん。ニホンジンのユータさん!フェイラ王国を知らないんだって!」
 マリュがさっきナリアに説明したことと同じことを王様に説明していた。
 説明を聞くと王様はなるほどと頷いていた。
「ナリアの言っていた聞きたいことっていうのはこの子のことだね?」
 ナリアが頷くのを見て王様は裕太ににっこりと微笑みかけた。
「君は……別の世界から来た子だね?それなら早く帰った方が良いよ。そうしないと戻れなくなるかもしれないらしいからね」
 王様の言うことに裕太は驚いたがすぐに顔を上げた。
「でも、どうやって戻ればいいのかわからないんです!」
「来たときと同じことをすれば良いんだよ。何をしてたらここに来てしまったのか思い出してごらん」
 特に珍しいことはしていなかった。
 ただ猫を追いかけていただけ。
 朱夏の猫を……
「!化け猫!!」
 化け猫を追いかけていたせいでこの世界に来たのだろう。
 そう思って思わず化け猫と叫んでしまった。
「化け猫とは失礼ね!」
 聞き覚えのある声と共に黒猫が玉座の裏から出てきた。
「あ!!あの猫!!!!」
 慌てて猫を捕まえようとしたが、猫はするっとわずかに開いていた扉から外に出ていった。
 それを見て裕太は猫を追いかけようとしたが扉の前で一度振り返った。
「ありがとうございました!」
 マリュ達に一言お礼を言うと裕太はすぐに部屋を飛び出した。
 今度はもう見失わなかった。

 

つぎ

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