急いで屋敷に戻ったが、屋敷の雰囲気は昼間のそれとは全く異なっていた。
鬼のものであろう妖気が漂っていた。たとえ、それを感じることが出来ない人物でも、雰囲気がおどろおどろしいものだというのは感じられるだろう。
「花月さん、この屋敷にいる人達を避難させてください」
屋敷の廊下を走りながら声をかけたが、花月は初音の後を追ってきていた。
「他の方はもう他の屋敷に逃げています。私が秋雨に無理矢理着いているだけですから、この屋敷には二人しか居ません」
姫を置いて、全員逃げたのかと思うと腹立たしかったが、逃がす手間が省けたとも思った。
「私は、逃げろと言われても逃げませんから」
初音の後ろから花月が言った。
一瞬迷ったが、初音は何も言わずに頷いた。花月の気持ちは、わかる。
秋雨の部屋に近づくに連れ、漂う妖気が濃くなっていく。鬼は確実に秋雨の部屋にいる。部屋の前に着くなり、初音は勢いよく障子を開けた。すると、鬼と刀を構えた秋雨が対峙していた。
何とか間に合ったようだ。
「何故来た?!」
秋雨が驚いたように声を上げた。
が、初音は笑みを浮かべながら秋雨を庇うように鬼の前に立った。
「あなたの幼なじみ様からの御依頼です」
そう言ってから、部屋の入り口の方にちらっと目をやった。
それにつられるように秋雨もそちらに目をやると、視界に花月の姿が入った。
「花月っ?!」
そのときの表情は、ただ驚いたときのそれではなく、信じられないと言いたげだった。そして、すぐさま叫んだ。
「逃げろ! 花月!!」
鬼に狙われているのは、あくまで秋雨の方だ。確かに、この場にいては危ないから逃げろと言うのもおかしくはない。だが、秋雨は叫ぶと同時に花月の方に駆けていった。そして、更に異様なことは秋雨より先に鬼が花月に襲いかかろうとしていることだった。
考えるよりも前に、身体が先に動いた。
鬼に攻撃を仕掛ける。
花月の方に向かって駆け出す
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