ここはまず知り合いに話を聞くことから始めよう。
 そう思ったクロは野良猫が集まる広場へと向かった。人間が滅多に足を踏み入れない裏路地を通って。人間が抜けることの出来ない小さな穴を抜けて。そうしてたどり着いた場所では時折猫の集会が開かれる。
 今日は集会がない日だったが、数匹の猫が集まっていた。
「よークロ。久しぶりー」
 その中から知り合いのトールが歩み寄ってきた。彼はこの広場に来る猫にしては珍しく飼い猫だった。手足と腹は白いが、全体的に赤茶けている。
「ちょっと聞いてくれよ。この間うちの御主人がさぁ『トール君って探し物とか見つけてくれないかなぁ』とか言い出してよー。どこの三毛猫だよって感じ」
 トールの話は時折、野良猫であるクロにはよくわからない。三毛猫でもそんなことは出来ないと思った。
 そんなどうでもいい話を続けようとするトールの言葉を遮るように、クロは口を開いた。一瞬トールが不満そうにしたのは見なかったことにした。
「実はちょっと人探してるんだけど」
「……オマエ、人の話聞いてたか?」
 呆れたように呟くトールを見て、クロは少し慌てた。
「や。でも、別に探して欲しいって頼むわけじゃないから!」
 クロの必死な様子に、トールは少し不満そうに「じゃぁ何だよ?」と続きを促した。クロはその言葉を受け、出来るだけトールの機嫌を損ねないように、言葉を選んだ。
「トールが前に言ってたキキコミってやつだよ。トールは顔が広いし、僕よりも人間を知ってるから」
 どの言葉に反応したのかはわからない。けれど、トールは満足そうに頷いた。機嫌が直ったらしい。
 しっぽがゆらゆらと揺れていた。
「たしかに俺はオマエよりも人間に詳しいからな! それで? 誰を探してんだ?」
 クロにはトールの気持ちが理解出来なかったが、とりあえず安心した。機嫌を損ねずに済んだのだから。
「えっと、前にも話したと思うけど、毎年桜を見に来る人間なんだけど……」
 そこまで聞くとトールは「あぁ」と一つ頷いた。続けて「そいつ知ってるよ」と答えた。実にあっさりと見つかってしまった。
「ホントに?!」
 クロが驚きの声を上げると、トールは「もちろん」と自慢げに胸を張った。
 それでもまだ信じられずにいるクロを余所に、トールは探し人のことを話し始めた。
「御主人がそいつ連れてきてさぁー『恋人なのー』って俺に紹介したんだー」
「……」
 言葉を失ってしまった。

さくらにそのことを伝えに行く。
もう少し話を聞く。