相手はさくらの思い人と、トールの飼い主。けれど人間だと言うことには変わりがない。
 野良猫が不用意に人間に近づくことは滅多にない。警戒心の薄い野良猫は生きていけないから。
 クロも腐っても野良猫。
 出来るだけ見つからないように隠れながら二人の後を追った。
 人間はデートというものをする。それは人間の多いところに行ったりするらしい。クロは人間とそれほど近くないからよく知らないが。
 それでも、昔トールが話していたことを思い出す。人間は人間がたくさんいてごった返しているところが好きなんだと。
 トールの言葉はおそらくあてになるのだろう。少なくともクロよりは。
 けれど、そう考えると妙だった。
 二人の人間は確かに人通りの多い商店街を歩いていた。歩いてはいたが、どちらかというと人気のない方へと向かっている気がする。どちらかというと商店街から離れようとしている気がする。
 少し気持ちに余裕が出来てきたクロは、どこへ行くのだろうと考えられるようになった。
 そんなこと、考えなくてもすぐにわかるはずなのに。
 この道を進んでいくとどこへ向かうか。
 商店街を抜けて。通りを抜けて。舗装されていない道を抜けて。どこへ、どこへ向かうのか。
「さく、ら……」
 考える余裕はあった。けれど平静を完全に取り戻していたわけじゃなかった。いつものクロならば、気づけた。
 さくらがいる、あの場所へ、向かっていると。
 放っておけばさくらの目に入ってしまう。好きな人が恋人を連れている姿を。望まない光景を。
 ――ねぇ。そうしたら君は、泣くのかな。
 止めなきゃ。さくらが泣かないように。そんなことになる前に止めなきゃ。

さくらの元に走る。
人間の足に飛びかかる。