序章 始まりを告げる寒夜

 これは、終わりなのだと思った。
 けれど同時に『始まり』だとも思った。
「さむいな……」
 わずかに耳に届く声。もう、誰の声かもよくわからない。
「……あぁ、寒いはずだ」
 窓の外では、やわらかな雪がちらちらと舞っていた。
 周りの話し声で、そのことを知った。
 この目でそれを確かめることは出来ない。この目はもう、ものを映すことはないだろう。きっとこの声も、もうすぐ聞こえなくなる。
 だから、終わり。
 でも、まだこれは始まりに過ぎない。
 そうやって話しているのを聞いたことがある。
 例えこれが終わっても、また次がある。これが終われば、次を始めれば良い。上手くいくまで、そうやって続けていけば良いのだと。
 きっと、話している当人達は、私が聞いていたなんて気づいていないんだろう。それとも、気づいていたところで、私には何も出来ないから放っておいた?
 そんなことをぼんやりと考えていたけど、途中でどうでも良いなと思った。
 もうすぐ終わりなのに、こんなことを考えても意味がない。
 いま、わたしが、なにをかんがえたとしても。
 それは全部無意味。
 あとはもう終わりがくるのを待つだけなのに、今更何を考えても意味はない。わかってる。
 ほら、どんどん真っ白になっていく。
 きっと外も真っ白になっているんだろうな。
 あぁ、そういえば、一緒に雪を見ようって約束したのになぁ……
 いきたかったな。いけるかな。いってくれるかな。また、さそってくれるかな。
 真っ白になりかけていた頭の中に、うっすらとよみがえってくる。
 私のことを知らないけど、私を知っているあの人。
 この名前、ちゃんと覚えていられるかな?
 覚えていたいの。忘れたくないの。
 名前を……

 ――桜井……

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