頼んでもいない送り迎えをされ、試験が終わったというのに六花に会えない日々が過ぎた。それも無事「レポート終わりました」という女の子の言葉により終わった。もっともそれは試験の結果を渡される夏休み前日だったが。 「サックー! どうよどうよどうだった?」 試験の結果を片手に面白いくらいの狼狽えようの杉田が現れた。 その様子で大体の結果が想像出来た。 「全教科追試おめでとう杉田」 無表情のまま、いつもと変わらない淡々とした口調で渡里が言った。その言葉を聞き、結城が楽しそうに杉田の試験結果を奪い取った。 直人の予想を大きく上回る悲惨な結果だった。 「うっわー、これマジ? さすが杉田。みんなの期待に答える男だな!」 「ユッキーだって追試あったダロ? 無いとは言わせネェ!」 だが、結城はニヤリと笑っていた。勝ち誇った笑み。その笑顔が全てを意味していた。 顔面蒼白の杉田に向かって結城は声高らかに言い放った。 「甘いな! 俺は全教科ギリギリセーフだ!」 「ぎぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「馬鹿」 「ある意味天才だけどな……」 結城の点数も決して良くはなかった。本当に全教科ギリギリだった。一カ所でも間違っていれば、確実に杉田と同じ結果になっていたくらいだ。良くもそれだけギリギリの点数が取れるなと少し感心した。羨ましくはないが。 そんな友人二人の様子に直人は苦笑しか出来なかった。渡里にいたっては興味がないようだった。 「サックーとワタッチはどうだったんよ?」 それほど追試仲間が欲しいのか、杉田は泣きそうな顔ですがりついてきた。 渡里は何も言わずに試験の結果を差し出した。そこにはクラス順位四位と言う杉田には別世界と思える文字が刻まれていた。 「こぉぉぉぉぉんの秀才めぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 思わず叫ぶ杉田に、渡里は冷たく「勉強すればこれくらい取れる」と言ってのけた。 さすがに直人も渡里の結果を見ると、もう少し勉強した方が良いのだろうかと考える。とは言え、そう思うのは試験直後だけ。次の試験の頃にはまた同じことを繰り返すのだろう。 そんなことを自分の結果を眺めながらぼんやりと考えていた。 「……あら。桜井君、案外頭良いのね」 この声が聞こえるたびに、杉田と結城は渡里の背後に隠れてしまう。 何故か、直人に『オカルト臭』がするようになってからはよく話しかけてくるようになったのだ。それにも関わらず、いまだ友人二人は慣れる様子を見せない。 「……俺は黒井にそんな馬鹿に見られてたのかよ?」 背後から覗き込まれた試験結果を隠しつつ、直人は軽くショックを受けていた。けれどミサはそんな他人の気持ちなどどうでも良さそうに返した。 「えぇ。そこの三人を足して三で割った程度だと思ってたわ」 言いながらミサは渡里とその背後にいる杉田と結城に視線をやった。その途端、杉田と結城が「ひぃ!」と叫んでいたが気にしていない。 全教科赤点+全教科赤点ギリギリ+クラス四位を三で割るということはつまり…… 「……平均点より低い評価かよ……」 もはやため息すら出ない。 これでも一応平均点は超えている。 軽い屈辱を感じながら、ぶつぶつぼやいていたが、ふと思い出したように顔を上げた。 「そう言う黒井は?」 直人の言葉に対し、ミサは返答の代わりに試験結果を差し出した。 興味があるのか渡里もそれを覗き込んできた。 「……へぇ」 渡里の感想はその一言だったが、直人は言葉が出てこなかった。 呆然としている直人の手から結果をかすめ取ると、ミサは何事もなかったように去っていった。 結果を覗き込まなかった二人は不思議そうに直人を見た後、渡里に問いかけた。 「どしたの?」 「意外だったんじゃないか?」 平然とした様子で答える渡里をよそに、直人はまだショックから抜けきらないようでぼんやりしていた。 どこか遠くを見るような瞳で、小さくぽつりとこぼした。 「……学年一位って、どれだけだよ」 黒井ミサ、あれでも学年主席である。 |