「桜井君。いつにも増してオカルト臭が強いわ」
「っ!」
 相変わらず背後から唐突に声をかけてくる。今回は考えながら歩いていたから気づかなかっただけかもしれないが。ミサの登場方法はいちいち心臓に悪い。
「黒井。部の方はもう良いのか?」
 平静を装って言葉を返すと「首尾は整えたわ」と返ってきた。
 聞く話によると、ミサの仕事はもうすでに完了したのであとは他の部員の準備が終わればいつでも実行出来るらしい。直人としてはそんな乗っ取ったりしてどうするんだと思うが、話が長くなりそうだから聞かないでおいた。
「あれー? 直、美人さん連れてんねー」
 この声を聞いたとき、やっぱり来たかと思った。もうそれ以上考えたくなかった。
 全身黒ずくめで魔女なオカルト研究会正装に身を包んだミサを見て臆せず近寄ってくるのは紛れもなく従兄だった。周囲は明らかにこっちと距離を取ろうとしているのに。寄ってくるなんて物好きにもほどがある。
「……桜井君。知り合い?」
「……従兄」
 不審者に警戒しているのかと思ったが、ミサは直人の想像以上の人物だった。
 妖しげな笑いが少し楽しそうなものに聞こえた。
「そう……血筋なのかしらね。彼も素敵なオカルト臭がするわ」
 ミサは楽しそうだったが、直人としてはあまり楽しくない。
 嫌な血筋だ。しかも恭介と同類と言われてはなんだか悲しくなってくる。
「……え?」
 肩を落としかけたとき、ミサの言葉がやっと理解出来た。
 恭介が直人と同じでオカルト臭がする。
 それだけなら別に血筋としてまとめても良いかもしれない。けれど、春の段階でミサは「昨日までしなかったオカルト臭がする」と直人に言った。つまり、原因は血筋ではない。
 どういうことだろう。これは……
 直人は真剣に考えようとしたが、残念なことに二人の会話がとてつもなく邪魔だった。
「お嬢さん、美人だねー。名前を聞いても? あ、俺は桜井恭介」
「黒井ミサと言います。以後お見知り置きを」
「ミサちゃんかーすごい格好してるねー。周りの視線独り占めって感じ」
「ふふふ……魔女は人を魅了してこそ……」
「へぇーミサちゃん魔女なんだー。魔法とか使えんの?」
「人に見せるほどじゃないわ」
「すっげー! まじで? 本物って初めて見たー」
「恭介さんは魔法に興味が?」
「小さい頃『黒魔術入門』を買ったくらいには」
「あら素敵。是非我が部に入って欲しかったわ……世代が違うのが勿体ない」
 こんな会話を隣でされているのに考え事が出来るはずない。
 直人は二人から離れようとしたが、何故か二人は直人の後ろをついてくる。おかげで痛いくらいの視線を周囲から感じる。
「……友達と合流したいから離れてくれない?」
 振り向いてはっきり言ってやると、恭介が「えー」と不満の声を上げた。ミサは相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を浮かべていた。つくづく嫌な組み合わせだと思う。
「せっかく来てやったのに案内してくんないんだー直のケチー」
「自分の母校だろ。案内なしでもどうにでもなるくせに」
 突き放すように言い放ったが、それでも恭介は後ろをついてきた。自然と、恭介と会話を続けているミサもついてくる。おそらく、オカルト研究会に呼び出されるまでミサはついてくるだろう。
「……俺が何したって言うんだ……」
 後ろの二人は周りの視線なんて気にしないから良いかもしれないが、直人にとっては全く良くない。人並みには視線が痛いと感じる。
 ため息がつきない。
 学祭はまだ始まったばかりだと言うのに。

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