基本的にオカルトとかファンタジーとかは信じていない。
 そんな非現実的なことあるわけないと思っていた。けれど、それだとどうしても説明がつかない。
 例え現実的に考えて『あり得ない』ことでも、そう考えなければ説明がつかない。
「……渡里。ちょっと良い?」
 数日間考えた末に、直人は一つの質問を投げかけた。
 結城や杉田は、あのときみたいに『罰ゲーム』でも賭けていない限り遅刻ギリギリにならないと姿を見せない。本来なら直人も朝早く学校に来る方ではなかったが、今日は違った。
「クローン人間っていると思う?」
「……は?」
 それは真剣な表情で尋ねることではない。あまりにも唐突で、非現実で……そして非倫理的だ。
 現在、多くの植物や動物でクローンの実験がおこなわれている。けれど、ほぼ全ての動物クローンには何らかの欠陥が見つかっている。まだ人間でおこなうには倫理的にも技術的にも問題が多い。
「……だから、一応いないことにはなっているが……報告がないだけでいるのかもしれないな」
 さすがに渡里も直人の質問には眉をひそめはしたが、それでもしっかりと言葉を返してくれた。
 質問した当人である直人は渡里の言葉を聞き、その表情を更に神妙なものにした。それは何かを思い詰めているような、そんな表情だった。
「やっぱり、クローン人間はダメ、だよな……」
 ぽつりと漏らしたその言葉に渡里が何か言おうと口を開きかけた。
「クローン? それって映画か何かの影響?」
 たった今教室に来たらしい結城が鞄を持ったまま不思議そうにしていた。普段聞き慣れない言葉にいくらかの興味を示したらしい。
 ここで渡里と直人の会話は中断された。もっとも直人の聞きたかったことはもうすでに答えを得られたから構わないのだが。
「ちょっと小説でそういうの読んで、実際のところクローンってどうなんだろうなって思ってさ。それで渡里に聞いてみただけだよ」
 何でもないような笑顔で言うと、結城はそれで納得したらしい。興味本位で「クローンってそんなに難しいの?」と渡里に尋ねるくらいだった。
 二人の会話を横目に直人は考えにふけりだした。
 おそらく、直人の想像が正しければ六花はクローンだ。
 恭介が言うには「一里と六花は双子のようにそっくり」だったらしい。けれど現実には年齢が離れすぎている。双子の可能性はあり得ない。それならばと直人が考えたことは『クローン人間』だった。考えた直人自身、現実味のないことだと思ったが、それ以外に説明のしようがなかった。六花は一里の、いや一里も誰かのクローンなのかもしれない。そうでもなければ二人がそっくりなはずがない。
「はよーござー! 三人して何の話してんのー?」
 今来たばかりとは思えないくらいの勢いで杉田は話の輪に加わってきた。直人は聞いていなかったが、どうやらまだクローンの話をしていたらしい。
 話に加わった杉田は直人を見て「はて」と首を傾げた。
 どうしたのかと思ったが、直人が尋ねる前に杉田は勝手に口を開いてくれた。
「サックー。これはワタッチに聞くよかオカ研に聞いた方が良くね?」
 オカ研とは杉田曰くオカルト研究会の略称らしい。誰かが使っているのを聞いたことはないが。いや、そもそもオカルト研究会の話をしている人がいないだけなのか。
 それは良いとして。杉田の言葉に直人は顔をしかめた。
 クローンはオカルトではない。現にオカルトホラーダメ人間・結城が平気な顔で会話に入って来ている。むしろ興味を示しているくらいだ。それなのにオカルト研究会に聞けと言うのは間違いではないだろうか。
「……クローンってオカルトだっけ?」
 直人の疑問に渡里は首を横に振った。渡里がそう答えるのなら間違いないだろうと言う考えが結城と直人にはあった。
 それでも何故か杉田は引こうとしなかった。
 その理由は至極簡単。

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