「まずは、田中の覚えてる場所まで行ってみるか」 捜査の基本は、まず情報収集だということだ。 情報もないまま闇雲に探すほど、鈴木はバカではなかった。 「そうだなぁ……たしか、学校から家に帰る途中だったんだよねぇ……」 そういいながら田中は必死に思い出そうとしているが、どうにも頭の回転が遅いというか、なかなか思い出せないでいる。 そんな田中の様子を見て、鈴木はため息をついた。 「……じゃぁ、とりあえずは学校からオマエの家まで歩いていってみるか」 その間に田中が思いだしてくれればいいなぁと思ったのだが、学校から十分くらい歩いても田中は思い出せないでいた。 「う、うーん……家までたどりついたっけ? あれ? 寄り道したっけ? いや、寄り道は昨日? あ、あれぇ?」 記憶が相当曖昧らしい。 考えても考えても思い出せないときは、一度考えるのをやめた方が良さそうだなと思い、鈴木は田中に声をかけた。 「田中、少し考えるのやめないか?違うこと考えてたら案外ふっと思い出すかもしれないし……」 「だいじょうぶ! もう少しで思い出せるから!」 さっきもそう言っていたが、それから五分は経過していた。 どうにも思い出せそうになかった。 仕方ないので、鈴木は違う話題を振ってみることにした。 「そういえば、オマエ今日は先帰ってたんだな」 「え」 田中は鈴木の顔を見たまま固まっていたが、鈴木本人はそんなことに気づいていなかった。 「オマエ、いつも待ってただろう? 人の意見は全く無視で、いつも帰りはついてきてただろう?」 いつもいつも何故か帰ろうとすると、「一緒に帰ろう」と声をかけてきていたのに。今日だけはそれがなかったので、どうしたんだろうと思っていたのだ。 その質問に、田中は答えづらそうに激しく狼狽していたが、鈴木はそんなこと微塵も気づきゃしない。 「えっと、えっと、それはぁー……」 答えに困っていると、鈴木はさらに問うた。 「大体、俺の家の側を通っていったら遠回りだろう? それなのにわざわざ俺の家の前通って行くし」 答えにくくてどうしようもない質問をさらに増やされ、田中は困ることしか出来ないでいた。 どう答えようどう答えようと考えていた田中の頭に、ふと助け船がやってきた。 「鈴木鈴木!! 思い出した思い出した! 私、今日はこの道を曲がったよ!」 そういって田中は自分の家とは反対方向にある道を指さした。 それを見た鈴木は自分の質問が流されたことにも気づかず、喜んだ。 「よし! 田中、よく思い出したな!」 ふと、田中の指さした方の道を歩きながら、鈴木は思った。 「……こっちの道って何かあったか?」 「えーっと、川とか?」 田中もよくわからないらしい。だが、もしも川だとしたら…… 「オマエ、川に落ちたんじゃないか?」 だとしたら、探すのは至難の業だ。流れが速いことで有名な川なのだから、田中の身体はもうずいぶん下流の方に流されたと考えて良いだろう。 「水死体って、ひどい顔になるんじゃなかった? そんなのやだぁ!!」 微妙に問題がずれているが、田中は泣きそうな顔で叫んだ。 だが、川にたどり着く手前のところで田中は立ち止まり、周りを見回しだした。 「……ねぇ、鈴木?」 「? どうしたんだよ?」 田中は首を傾げたまま、鈴木に言った。 「私、この辺りからの記憶ないよ」 そこは、人通りのほとんどない十字路。周りにあるのは背の高いくさはらのみ。
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